「2章・8」人って変わりません

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「2章・8」人って変わりません

貴族では無いエレンは、エリザベスやガブリエルの話は遠い世界のように思っていた。でも、そうでは無かったようだ。 「こんにちは、エレン・カーターさん。私は、ウェスト公爵のエリザベス令嬢の婚約者です。はじめまして。」 ええ、よく知ってます。その前は、ガブリエルと婚約しててガブリエルの学友とも婚約した王子様。 屋敷に予告なしに訪れた客は、美しい王子様。外見だけは。 「ようこそ、ジェラルド王子様。」 「少しお話がしたくて参りました。突然の訪問をお許しください。」 「お話?」って、会った事の無い娘に何の話なの。嫌な予感がする。その通りに屋敷の居間に向き合うと話を切り出した。 「私とエリザベス令嬢は、近いうちに挙式いたします。王族が少なくなった今、王妃になる可能性も無いわけでは無い。」 ジェラルド王子は、紅茶に手もつけず目の前のエレンを視線で値踏みした。エレンは、鳥肌たつ。失礼な男だ。 「あなたは、ご友人の父親の愛人ですね。それで、生活してるわけだ。そんな者が高貴な将来のある令嬢の側に居ると汚れる!」 エレンは、あまりの物言いに顔色を失った。初対面の娘に、上品な紳士が言う言葉では無い。 「私の婚約者の側から消えて欲しい。身の程知らずには、教えないと分からないようだから。お願いしに来た次第です。分かって頂けましたか?」 エレンは、目の前の綺麗な顔をした男が怖くてならない。無言で頷くのが精一杯。でも、帰るのを見送って呟いた。 「クソオヤジーー!」 自分を守ってくれる魔法の呪文。どうした事でしょう。走り出した馬車の馬が、何かに驚いて爆走し始めた。 ガラガラ、ガンガン、ゴンゴン~~~! 屋敷の中に居ても聞こえてくる馬車の追突する音に、エレンは笑い出す。何て、素敵なのかしら。 でも、人の不幸を喜んではいけないわ。神さま、私はイケナイ娘です。お許しください、ふふっー(笑) そして、ガブリエルはーー。 せっかく、過去の嫌な事を忘れかけていたのに。忘れさせてくれないらしい。 都に畑で収穫した物を届けて、商売も上々。気分も良くジョーンズ伯爵の敷地にある家へと帰宅したガブリエル。 (えっ、誰か居るー!?) 大きな絵のカエルが、壁に貼り付いて大きく口を開けている。パトリシアが置いている普通の人には見えない警備員だ。 「ケロッ?(侵入したから食べていい?)」 ガブリエルは、首を横に振った。本当は縦に振って食べて欲しいけど。後が面倒だから。 前に、同じ事があったわ。また、繰り返しなのね。うんざりだわ。でも、笑顔を造って。 「王子様さま、何をされてるんですか?」 ジェラルド王子はパトリシアが渡したジョーンズ伯爵の土地の地質調査を見ていたようだ。 頭と手に包帯をして、綺麗な顔には傷痕(きずあと)。怪我をしてますね、何かありましたか。 「これは、専門家に頼んだようですね。よく出来ている。かなりの金額を使っていたのか。」 「何かをやる時には、投資が必要です。この村でも、そうしました。」 「ゴー所長は、身寄りが無いそうですね。そのお金は、何処から出されたんですか?」 「何ですって?責任者のゴメス社長が費用は出されました。身寄りが無いからって関係ないでしょ!」 同じ行動、同じ台詞、芸無し男。腹を立てたガブリエルは、王子の手から書類を奪い返した。 あ、やってしまった。こんな事を喜ぶ人だったのに。王子は、ちょっと驚く。そして、嬉しそうに笑った。 「おや、気が強いんですね。ガブリエルさんは?そういう女性は、嫌いじゃありませんよ。」 そう言うと、ガブリエルの手首を掴んだ。聞きあきたわよ。そう、ガブリエルは叫びそうになった。 「あなた、私が好きですよね。あなたの視線が、教えてくれてます。女性は、私を好きになる。お相手しても、いいんですが。」 手のひらに乾いた唇が付けられた。その途端、ガブリエルの身体に走る悪寒。寒い寒いーー。この男は、バカ? こんな時は、魔法の呪文。 「クソオヤジーー!(二度と来るな!)」 ジェラルド王子は、ピタリと動きを止めた。そして、ドアに向かって歩き出す。 ゴンッ、ガタガタ、ドンッー! 時々、あちこちに当たってますが大丈夫でしょう。お帰りになりました。ホッとして、イラッとして脱力感。 素敵な人と巡りあって恋をしたいと願う。 夜のお勉強会「パトリシアの魔法教室」 エリザベスは、笑い転げる。涙まで流して大ウケ。 「何なの?あの男、何様だと思ってるのかしら。笑い死にしそう、止めてくださる。」 エレンとガブリエルは、被害者同志で目を見合わせる。笑いごとでは無い、酷い目に合わされたのだから。 笑っているのは、エリザベスだけではない。 「たまらない、そいつ。自分の事を偉いと思ってるんだね。笑えるー、キャハハー!」 この2人、気が合うようです。聞いていたパトリシアが、エレンとガブリエルを気遣った。 「魔法で、お2人のガードを強めておきます。これから、何をするか分かりませんから。」 エレンとガブリエルは、不安気にパトリシアを見た。 「パトリシアさん、何をするか分からないって。どういう事ですか?」 「エレンさん、ジェラルド王子は王位継承者に近づいてますから。権力を持つと危ない部類ですよ。」 ガブリエルは、けなしてみた。 「ただの女好きかと思っていました。」 「ガブリエルさん。彼は、あなたを愛してたのでは?」 「ジェラルドが、私を?そんな事、ありません!」 「自分で気がついてないだけかも。繰り返しているのは、あなたを求めているからですよ。」 ガブリエルは、笑い出す。愛しているのなら、あんな酷い事をするはずが無い。 「愛って、大切にしてくれるはずです。そう、思います。」 ポロポロと零れ落ちる涙を止められない。エドワードが気がついて、椅子から立ち上がると座っているガブリエルを背後から抱いた。 「泣くな、泣くなって。な、ガブリエル。」 優しい声で、話しかける。それを見てパトリシアは2人に遠い記憶を重ねていた。 エドワードの前世の男が、美しい女と抱き合っているのを。 (いい男と、いい女の組み合わせ。似合いのカップルだった。君たちは。) 美しい女は、ガブリエルの前世の姿。この2人は、前世で婚約していたのだ。運命は引き寄せ合うのか。 そして、自分も。その前に彼女が婚約していたのは、自分とだったのだから。 (君と私は、結婚していたかもしれなかったんだよ。) 何故、気が変わったのか。愛し合っていたはずなのに。
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