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「2章・11」君は誰が好きなの?
娘たちを送り届けるのは良いが、見てられない。小柄なパトリシア嬢が、自分より大きな女性の身体を抱き上げるなんて。
「パティ、任せてよ。僕がやるから。男だもん!」
エドワードが手助けに入った。お城での暮らしとは違う平穏な生活になって、すっかり逞しくなった王子。
「リズ、君の部屋に戻ったよ。」
一緒に移動したパトリシアは、戸惑う。「リズ」なんて愛称で呼ぶ仲なのか。エドワードは、寝台から身代わり人形を引き出した。
「さあ、ドレスを脱ぐよ。腕を上げて。」
聞いたパトリシアが狼狽(うろた)える。目の前で言われるままに両腕を上げるエリザベスの姿。2人は、そんな関係なのか?
ピッピッピッー(脇のホックを外す音)スルスルスルー(ドレスの背中の紐を外す音)
慣れた手つきでドレスを脱がせ、抱き上げて寝台へ横たえる。エリザベスも抵抗もせずに身を任せていた。まるで、愛人だ。
(いつの間に、2人は関係を深めたんだろう。もっと、注意しておくべきだった。何しろ、こいつの前世は女たらしだったんだから!)
女は子供からお婆ちゃんまで、前世の騎士フランソワに夢中になった。親友である私の婚約者にまで手を出す男だ。
エドワードは、立ちすくむパトリシアの肩を抱いて言った。
「ねえ、パティ。嫉妬(しっと)してる?」
「嫉妬って、誰に?」
「嫌だな、隠さないでよ。僕とリズが親しくて焼けるだろ。」
「焼くわけないだろ!お前たち、恋人なんだろ?好きなら、いいよ。」
「こ、恋人?リズと僕が?」
エドワードは、吹き出した。おかしそうに笑う。
「僕を使用人くらいにしか考えてないよ、彼女は。恋人だって、勘違いも酷いよ!」
エドワードの笑い声が響いたのか、ドアを開く者がいる。
「エリザベスお嬢様、起きておられますか?」
部屋付のメイドが、入って来るではないか。エレンとは、呪文を唱えた。
「クソオヤジ!僕たちは、君には見えてない。」
メイドは、2人の前を通り過ぎて寝台の中の主人を確認した。エリザベスは、寝たふり。
「おかしいわ。男の笑い声が聞こえたのに、空耳かしら?」
そして、部屋を出て行った。エリザベスが、2人を追手で追い払う。
「何なの?騒動になったら面倒になるでしょ。早く、お帰りになって!」
エドワードとパトリシアは、その通りにドアから退散した。
ガブリエルとエレンを送り届けると、エドワードの屋敷でパトリシアはエドワードに確認した。
「エドワード、本当にエリザベスとは何でも無いんだね?」
「疑い深いなあ、パティは。それだけ、僕を愛してくれてる証拠だけど。嬉しいよ。」
「くれぐれも、勉強会のメンバーには手を出さない事。守ってくれよ。」
「勿論(もちろん)!僕の愛は、パティだけだから。誓うよ。」
そんな万面笑顔で答えられても、不信感は消えない。
「早く、強くなるからね。パティを守れるように。そして、騎士だけで生活できるように。そうなったら、結婚してくれるだろ?」
また、始まった。エドワードとパトリシアの結婚話。私達は、前世では親友だったんだ。男と男だったのに、無理だよ。
(フランソワとキスをするのを想像しただけで、鳥肌立つ。まだ、モンスターの方がいい。ゾゾーー!)
精霊に例えられる程の美貌を持っていた英雄の剣士。闘いと酒を好み、何処へ行っても側に美女が居た。
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