「2章・11」君は誰が好きなの?

1/1
前へ
/124ページ
次へ

「2章・11」君は誰が好きなの?

娘たちを送り届けるのは良いが、見てられない。小柄なパトリシア嬢が、自分より大きな女性の身体を抱き上げるなんて。 「パティ、任せてよ。僕がやるから。男だもん!」 エドワードが手助けに入った。お城での暮らしとは違う平穏な生活になって、すっかり逞しくなった王子。 「リズ、君の部屋に戻ったよ。」 一緒に移動したパトリシアは、戸惑う。「リズ」なんて愛称で呼ぶ仲なのか。エドワードは、寝台から身代わり人形を引き出した。 「さあ、ドレスを脱ぐよ。腕を上げて。」 聞いたパトリシアが狼狽(うろた)える。目の前で言われるままに両腕を上げるエリザベスの姿。2人は、そんな関係なのか? ピッピッピッー(脇のホックを外す音)スルスルスルー(ドレスの背中の紐を外す音) 慣れた手つきでドレスを脱がせ、抱き上げて寝台へ横たえる。エリザベスも抵抗もせずに身を任せていた。まるで、愛人だ。 (いつの間に、2人は関係を深めたんだろう。もっと、注意しておくべきだった。何しろ、こいつの前世は女たらしだったんだから!) 女は子供からお婆ちゃんまで、前世の騎士フランソワに夢中になった。親友である私の婚約者にまで手を出す男だ。 エドワードは、立ちすくむパトリシアの肩を抱いて言った。 「ねえ、パティ。嫉妬(しっと)してる?」 「嫉妬って、誰に?」 「嫌だな、隠さないでよ。僕とリズが親しくて焼けるだろ。」 「焼くわけないだろ!お前たち、恋人なんだろ?好きなら、いいよ。」 「こ、恋人?リズと僕が?」 エドワードは、吹き出した。おかしそうに笑う。 「僕を使用人くらいにしか考えてないよ、彼女は。恋人だって、勘違いも酷いよ!」 エドワードの笑い声が響いたのか、ドアを開く者がいる。 「エリザベスお嬢様、起きておられますか?」 部屋付のメイドが、入って来るではないか。エレンとは、呪文を唱えた。 「クソオヤジ!僕たちは、君には見えてない。」 メイドは、2人の前を通り過ぎて寝台の中の主人を確認した。エリザベスは、寝たふり。 「おかしいわ。男の笑い声が聞こえたのに、空耳かしら?」 そして、部屋を出て行った。エリザベスが、2人を追手で追い払う。 「何なの?騒動になったら面倒になるでしょ。早く、お帰りになって!」 エドワードとパトリシアは、その通りにドアから退散した。 ガブリエルとエレンを送り届けると、エドワードの屋敷でパトリシアはエドワードに確認した。 「エドワード、本当にエリザベスとは何でも無いんだね?」 「疑い深いなあ、パティは。それだけ、僕を愛してくれてる証拠だけど。嬉しいよ。」 「くれぐれも、勉強会のメンバーには手を出さない事。守ってくれよ。」 「勿論(もちろん)!僕の愛は、パティだけだから。誓うよ。」 そんな万面笑顔で答えられても、不信感は消えない。 「早く、強くなるからね。パティを守れるように。そして、騎士だけで生活できるように。そうなったら、結婚してくれるだろ?」 また、始まった。エドワードとパトリシアの結婚話。私達は、前世では親友だったんだ。男と男だったのに、無理だよ。 (フランソワとキスをするのを想像しただけで、鳥肌立つ。まだ、モンスターの方がいい。ゾゾーー!) 精霊に例えられる程の美貌を持っていた英雄の剣士。闘いと酒を好み、何処へ行っても側に美女が居た。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!

80人が本棚に入れています
本棚に追加