「2章・14」エリザベスは悩んでいるようだ

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「2章・14」エリザベスは悩んでいるようだ

エドワードは、愛剣ファントムで襲って来るマミーを真っ二つに切り下ろした。 「うーん、最高だ。気持ちいいー!」 向こうでは、エリザベスが逃げるマミーを追いかけている。追いかけているというか、追い回しているというか。 「彼女、どうしたのかなあ。」 あれは、戦闘というよりストレス解消みたいにしか見えない。王様になるかもしれない王子と婚約して幸せじゃないの? 「待ちなさい、逃げられると思っているのーー!」 1人で半分以上のマミーを片付けていく女騎士。君は、確かに強くなったよ。付与付の剣だから、疲れないし。お得だ。 「エドワードさん、モンスターは片付きましたけど。エリザベスさんが、探しに行きました。どうしますか?」 今日の寄せ集めの仮チームのメンバーが、そう言って来る。ダンジョンの宝箱は手に入れたので帰りたいのだろう。 仕方ないので、エドワードは目を閉じて集中するとエリザベスを探した。見つけた、岩穴に入って行こうとしている。 『リズ、帰ろうよ。戻って来て!』 そして、魔法の呪文の「クソオヤジ!」を唱えた。向こうから、エリザベスの姿が現れる。それも、早回しの後ろ歩きでした。 チームのメンバーは、呆気にとられる。あれは、呪術なのだろうか。ざわざわとする。 「す、凄いのを見たー!」 「チーム「茹で玉子」の大輪の花と呼ばれているエリザベスさんが!」 「呪術を使えるとは!」 「何という術なのですか?教えて下さい!」 ギルドでチーム集めをすると、美人のエリザベス目当てに男達が集まってくる。「茹で玉子」は美女揃いで人気なのだ。 メンバーに囲まれて、エリザベスは不満そうにエドワードを睨んだ。魔法で連れ戻したのを恨まれまたか。 「エド、帰りたくないの。私は。もう少し、お願い?」 「甘えるのは、婚約者にしてくれる。終わったから帰るよ。」 「何なの?いいじゃない、少しくらい!」 「深追いは、怪我の元だから。パティに出禁されたら、ギルドに入れない。いいのかなあ?」 その言葉は、エリザベスに効き目があったらしい。帰り支度を始めた。いったい、何を悩んでるのか。ギルドに連日で入っている。 エドワードの屋敷へ戻って、着替えたエリザベスをエドワードは引き留めた。「一杯、やろうよ。」と。 今夜は、パトリシア達の居ない2人きり。シャンペンを飲みながらエドワードは聞いてみる。 「どうしたのかな、エリザベスお姉さまは。悩み事があるなら、僕が聞いてあげるよ。」 エリザベスは、深い吐息をついた。何やら悩んでいるようだ。気強な姫も、決断できない事があるらしい。 「あなた、お父様や兄弟に会いたくないのかしら。お城が懐かしいとは思わないの?」 「えー、お城?ぜーんぜーん、思わないね。今が、楽しいから。(元王子でした)」 「何なの?家族でしょ!」 「違う違う、家族じゃないから。僕が毒殺されようと、暗殺されようと、父王は自分が安全ならいいんだよ。向こうも僕の事は忘れてると思うし。」 「私なら、会いたいと思うの。」 エリザベスは、グラスの中のシャンペンを見つめた。その長い睫毛が震える。エドワードは片腕を伸ばして、その細い肩を優しく抱いきよせた。 「強いお姉さまは、どうしたの。マリッジブルー?」 「そうみたい、不思議なの。私が病気の時は、家族が遠ざかって行くのが恨めしかったのに。」 「エリザベスさんは、優しいから。」 「あら、私は優しくなんてないのよ。」 「ううん、知ってる。優しいよ。」 「あなた、パトリシアさんが大好きなのでしょ?」 「うん、大好き。だって、命の恩人だし。パトリシアが現れなかったら、死んでたんだよ。僕は。」 「ああ、そういう事なのね。」 笑いながら、エリザベスはエドワードの肩にもたれる。毎日、ギルドに入って鍛えている者の身体は逞しい。 (何なの?不思議だわ。このまま、一緒に居たいと思ってしまうの。エドワードって、危険ね。ジェラルドには無い魅力よ!) 婚約者のジェラルドに対しての信頼感をエリザベスは持っていない。 刺客に何度も襲われたが、自分だけ逃げ出す男だ。花嫁の代わりは幾らでもいるという事なのだろう。 (ずっと、エドワードと暮らしていけたら楽しいでしょうねえ。) 他の男性には、考えた事も無い未来。短い間に居なくてはいけない人になってしまったような。 本当なら、王様になったかもしれない王子様。遠くから見ているだけだったのに、不思議な縁です。 翌日は、お城で開かれる舞踏会。当然、エドワードの婚約者としてエリザベスも招かれている。 ドレスの下のコルセットが苦しくて、エリザベスは気分が悪くなりそうだった。何だか、気が進まない。二日酔いみたいだし。 「何なのー、嫌っ!ねえ、お母さま。私、舞踏会に行くのを止めにしたいですわ。」 と言おうものなら、母親が怒り出す。かっては、家の恥扱いだった娘は今や王妃になるかもしれない自慢の娘だからだ。 「何を言うの、エリザベス!あなたは、王家の列に入るのよ。私とお父様も後から行きますから、お役目を果たして下さい。いいですね。」 目を三角にして、叱られました。父も母も鼻高々で舞踏会へ行くのを楽しみにしている。仕方ない、二日酔いの薬を飲みますか。 それが、不幸の前兆(ぜんちょう)だったのだ。
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