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「1章・1」新しいこと
ガブリエルは、夢を見ていた。忘れようにも忘れられない夢を。
『君との婚約は、無かった事にする!』
第4王子のジェラルドは、声も高らかに宣言した。王をはじめ貴族の面々が集まった王宮の舞踏会の最中に。
ガブリエルは、蒼白になり声を発する事も出来なかった。そして、召し使いたちに支えられるようにして出されたのだ。
「ジェラルド王子・・さま。」
うなされて、目を覚まして泣く繰り返し。結婚間近だったのに、何故なのだろう。まだ、理由が分からない。
だが、ガブリエルを災難は放っておかない。またしても、不運が襲う。
「お嬢様、旦那さまがお呼びです。」
父親の公爵が帰宅して、ガブリエルを呼んだ。その恐ろしい顔に娘は、目を上げられない。何か、あったのだ。
「私は、こんな恥ずかしい思いをした事が無い。王子が婚約破棄するのも、無理はない。お前は、この家に泥を塗った。勘当だ、出て行きなさい!」
ガブリエルは、釈明(しゃくめい)する事も許されなかった。荷物ひとつで、育った家から追い出されたのだ。
もう、泣く事も出来なかった。
都の門の外に座り込んでいたのを救ってくれたのは、紳士だ。痩せてヒョロリとした長身に銀色の長い髪。
「お嬢様、元気を出して下さい。私の名前はアグアニエベ、天使のお使いですよ。」
ガブリエルは、力なく笑った。
「天使でも、悪魔でも、私を救えないわ。」
「おやおや、諦めの早い。パトリシアさんに頼まれて来たのにねえ。」
「パトリシアさん?」
驚くガブリエルに、アグアニエベは笑いかける。
「さあ、参りましょう。あなたが、これから暮らす家へ。あなたの家へ。ここには、未練は無いでしょ?」
未練なんか、無かった。誰もが、ガブリエルを責める。ガブリエルに真実を聞く事も無く。
だから、アグアニエベの手を取った。
その夜から、都でガブリエルの姿は消える。探す者も無いままに。
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