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「1章・2」新しい生活
パトリシア・バートンは身代わり人形に留守を頼んで出かけた。都から少し離れた場所にある村へ行く為だ。
「パトリシアさん、こんにちは。お昼ごはん、食べていきませんか?」
その村で元気よく声をかけてくるブロンドの美しい娘。パトリシアは、笑顔で応える。
「こんにちは、ガブリエルさん。ご馳走になります。」
男の子の服を来た丸い顔をした茶色の髪の少女は、そこでは所長の友人として通っている。
皆で食べる大テーブルに、食事の皿が並んだ。
「さあ、食べて食べて。食べないと、お昼からの仕事ができないわよ。」
声をかける所長に、皆が食べ始める。食事は無料で食べ放題だった。食事の後、所長室でパトリシアとガブリエルは会話した。
「ガブリエルさんは、馴れたみたいですね。ここの暮らしも仕事も。」
「私は、ここでは、ガブリエル・ゴーなのよ。あなたが観てもらった姓名判断の名前。おかげで店は繁盛してるわ。」
パトリシアは、話の種にしただけなのに。ガブリエルは人生を変えようとしたのか、名前を変えてしまってる。
毎日の肉体労働で身体も引き締まり、別人のようだ。地味で控えめな伯爵令嬢の姿は無い。
「あなたに教えてもらった魔法には、助けてもらってます。もっと、教えてくださる?」
彼女は、パトリシアに魔法を教わっていた。魔法を覚える事で、違う自分になれる気がするのだ。
普段のパトリシアは舌ったらずだが、魔法使いのパトリシアは男のような口調に変わる。別人のように。二重人格と理解していた。
「知ってますか。ジェラルド王子は、婚約されましたよ。イザベラ嬢と。」
ガブリエルの顔が強張った。自分と婚約破棄して彼女の親友と婚約するとは。ショックを隠せない。
「私と婚約破棄して、少しの間に話が決まったのね。早すぎるわ!」
「以前から、親しかったという噂です。」
「以前から・・。」
なんという事。知らないうちに、そんな事が起こっていたのだ。ガブリエルは何も知らずに、婚礼の準備をしていたのに。
(あの花嫁衣装は、出来上がってるでしょうね。お父さまは、処分したのかしら。)
仕立て職人が何ヵ月もかけて縫った特別注文の最高級レースで作らせたウェディングドレス。気に入ったデザインだったのに。
(ダメだわ、涙が出て止まらない。)
ガブリエルは、パトリシアに分からないようにハンカチで涙を押さえた。まだ、悲しんでいると同情されるのは嫌。
「そういえば、ジェラルド王子さまの馬車とスレ違いました。そこの道で。」
ビリッーー。
いけない、ハンカチを破ってしまったわ。力が入ってしまったのね。可愛い刺繍(ししゅう)なのに。使えないわ。
「そうなの。ここの領主様が王家の血縁だそうなのよ。お年だから隠居される事になって、あの「ク、ソ、お、う、じ」が後を継ぐんですって。ググググ~~~、ビリッ!」
パトリシアは、目を丸くして破られるハンカチを見ていた。ガブリエルは、かなりの憎しみを持ってるらしい。
儚気(はかなげ)な女性だったのに、強くなったみたいだ。変わったな・・・
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