80人が本棚に入れています
本棚に追加
「1章・3」会いたくないのに会う
ジェラルド王子は、大叔父に挨拶をすると領地の見回りに出た。子供の居ない大叔父から受け継ぐ土地に責任を感じていたのだ。
(産業も無く農地も収穫が少なくて、管理が大変なのは覚悟の上だ。良民の為にも、どうにかしてやりたい。)
自分の連れて来た侍従と共に馬でまわる。そして、気になっていた村へ入った。
「これは、ジェラルド王子さま。ようこそ、いらっしゃいました!」
予告なしの訪問に、慌てふためく村長。転がるように飛び出して来て、出迎えた。
「近くまで来たので、寄ってみました。今日は、ゴー商会の所長は在宅ですか。会いたいのですが?」
もとから、所長に会うつもりだった。貧しい領地で会社を作り、最初から高い売り上げを上げ続けているという成功者。会いたい。
「あ、はい。呼んで参ります。お待ちを。」
村長の家で休憩しながら、待つ。会いに来た相手が、自分の元婚約者だとは知らずに。
呼びに来た村長の使いに用件を聞いたガブリエルの肩が震えた。まだ、立ち直ってはいない。時間が足りな過ぎる。
パトリシアは、ガブリエルの細く嘉多を抱いた。そっと、優しく。
「大丈夫かい?会わなくて済むようにしようか。ウサギにするかい、豚かい?」
ガブリエルは、クスクスと笑う。想像しただけで、おかしくて。あのツンケン王子が豚だなんて素敵。やって欲しい!
「平気よ、私は。豚にするのは、後の楽しみにさせて下さいな。」
笑い話にしてるけど、ドキリとした。女なのに、肩の抱き方が上手すぎるんですもの。男だったら、落ちてるわ。
ジェラルド王子のエスコートなんて、物扱いですもの。愛情の欠片も無かったんだから!
美しい娘は、村長の家で王子の前で優雅に膝を折る。貴族の礼儀を心得ているようだ。
「はじめまして、王子さま。リエル・ゴーでございます。」
王家の王子たちの中でも、美形と名高い王子。笑顔でリエルに話かけてくる。若い娘なら、腰砕けるだろう。
「あなたが、ゴー商会の所長ですか。こんな美しい方だとは思いませんでした。」
「あら、そんなお世辞を言って頂いて嬉しいですわ(この女たらし!)」
何ていう男。婚約者の私には美辞麗句(びじれいく)は一言もかけてはくれなかった、じゃないの。酷いわ!
笑顔を作りながら、腹の中は煮えたぎる。パトリシアの魔法が、ガブリエルの真の姿を見せずに済んでいるから安心だけど。
「私が領主を継いだら、あなたに領民の生活を上げる政策に助言して頂きたいのです。協力してくれますか?」
それは、それは、甘い眼差しで娘を誘惑する男。騙されませんよ、私は。絶対にね。
最初のコメントを投稿しよう!