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結局、あれから彼女を追いかけなかった。追いかけられなかった。
彼女の言葉のせいか、それとも、死ぬことへの恐怖だったのかは分からない。でも、だから今の僕があるんだと思う。弱虫でも、強くあれば良いんだと、そう思って生きてきた。
太陽はその姿を隠し、いよいよ僕の頭上は夜一色に染められようとしている。
……そろそろ僕は行かなくちゃ。
「ありがとう」
あの日、決して僕の時計の針は止まらなかった。彼女の所為、なのだろう。多分、それがなかったら、ここには来れていない。
焼けた風景を仰いだ。
「––––あと、ごめん」
でも、一度壊れて仕舞えば、直すことなど出来なかった。
一度でも狂ったものは、決して戻ることを許されなかった。
進むべきはずの道は、何処にも無かった。
「……じゃあね。また、逢おう」
腕時計は永遠に十八時五十九分を刺したまま。電池切れでも、故障でも、不具合でもない。
八年前の今日。理由もなく止まってしまった時計は、この瞬間からまた動き始める。
そして、僕と彼女の物語は終わった。
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