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ふと、遠のいていた意識は携帯の着信で現実へと戻されてしまう。
ポケットから取り出して、すぐに着信拒否のボタンを押すと、「ごめん。今外にいるから」なんて定型文を選んで、送信する。そして、電源まで切り、その辺に放り投げた。
「はぁ……」
溢れる吐息には、幾分かの幸せが入っているのだろう。だったら、誰かに届いてくれれば良いな。なんて下らない感傷に浸り、ほんの数瞬の間だけ目を瞑った。
暗闇に差す微かな光は、こんな時ですら目蓋の裏側に浮かぶ。そんな事に心底うんざりしている。呆れる。茫然とする。でも、心の奥底では安心していた。
もう一つ、大きな息を吐くと、ゆっくりと目を開く。その瞬間、一筋の流れ星が駆けて行った。
願い事、願い事……そんな事を考えていると、いつの間にか消えてしまっている。まぁ、だからこそ、三回も願い事を唱えれたら叶うと言われるのだろう。
ふと見上げると、近くに街という街が無いせいか、もう紺青の空には瞬く光が鏤められていた。腕時計は十八時五十九分を示している。
やっぱり神様って意地悪だ。
幾重にもなった偶然は、二つとない鮮明な記憶をこんな綺麗な風景に投影した。
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