2月29日

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「ねぇ、来世は何が良いかな」 「来世? 信じてるの? 生まれ変わり」 「まぁね。私は、また私に生まれ変わりたい」 「なんだよそれ」 「……また出逢えるかな」 「…………」  今過ごしているはずの一年に無い今日。例外を許さないこの世にある“例外”。  多分、それが僕と彼女が出逢えた理由で、たった一つの共通点。そして––––。 「……じゃあ、そろそろ行こうかな」 「……うん」 「ちゃんとお別れをしなきゃだね」 「分かった」  込み上げてくるのは、言葉に出来ない程苦しい切なさ。最後に見る景色が、こんな綺麗だと、ちょっとくらいの後悔は残るだろうな。  吐き出してしまいたい全てを、背負いきれない全てを持って、そっと口を開く。 「じゃあね」 「ばいばい」 「また逢おうね」 「うん。また」  そう言うと、手を繋ぎ、足並みを揃え、ゆっくりと歩き始める。足場のない空に向かって。  寄せては返す(さざなみ)の音、暮れを告げる烏の声、虫のさざめき。そんなのを横目に一歩、一歩と踏み締めていく。  互いの体温を確認しつつ、全身の震えを誤魔化し合って、進んで行った。  そして、もう一歩踏み出せば、天へと続く道へ真っ逆さまだ。  どんどん強くなる震えに互いを抱きしめ合う。 「ごめん。ちょっと怖いな」 「僕も」 「でも、行こ」 「うん」  大きく息を吸い込み、“終わり”を覚悟した。  瞬間。 「月が綺麗だね」  彼女の小さな(ささや)きに、つい空を見上げ、淡い月に目を()られてしまう。 「……本当にごめんね」  そんな小さな(つぶや)きが聞こえた瞬間には、もう全てが遅かった。  不意に強く押されてしまい、大きく後ろへと下がってしまう。 「私の分まで、生きて。強く生きて」  最期の叫び。  涙を浮かべながら満面の笑みを見せると、眠りにつくように目を閉じる。そのまま足場ない道へと倒れるように、彼女はそこから消えてしまった。  遅れて一つ聞こえた水音。 「な……何、で」  理解出来なかった。  全てを共にすると誓い合った彼女が、何故、最期の最後で僕を裏切ったのか。  凪も終わり、潮風に煽られる中、ただ、呆然とするしかなかった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加