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「ねぇ、来世は何が良いかな」
「来世? 信じてるの? 生まれ変わり」
「まぁね。私は、また私に生まれ変わりたい」
「なんだよそれ」
「……また出逢えるかな」
「…………」
今過ごしているはずの一年に無い今日。例外を許さないこの世にある“例外”。
多分、それが僕と彼女が出逢えた理由で、たった一つの共通点。そして––––。
「……じゃあ、そろそろ行こうかな」
「……うん」
「ちゃんとお別れをしなきゃだね」
「分かった」
込み上げてくるのは、言葉に出来ない程苦しい切なさ。最後に見る景色が、こんな綺麗だと、ちょっとくらいの後悔は残るだろうな。
吐き出してしまいたい全てを、背負いきれない全てを持って、そっと口を開く。
「じゃあね」
「ばいばい」
「また逢おうね」
「うん。また」
そう言うと、手を繋ぎ、足並みを揃え、ゆっくりと歩き始める。足場のない空に向かって。
寄せては返す漣の音、暮れを告げる烏の声、虫のさざめき。そんなのを横目に一歩、一歩と踏み締めていく。
互いの体温を確認しつつ、全身の震えを誤魔化し合って、進んで行った。
そして、もう一歩踏み出せば、天へと続く道へ真っ逆さまだ。
どんどん強くなる震えに互いを抱きしめ合う。
「ごめん。ちょっと怖いな」
「僕も」
「でも、行こ」
「うん」
大きく息を吸い込み、“終わり”を覚悟した。
瞬間。
「月が綺麗だね」
彼女の小さな囁きに、つい空を見上げ、淡い月に目を盗られてしまう。
「……本当にごめんね」
そんな小さな呟きが聞こえた瞬間には、もう全てが遅かった。
不意に強く押されてしまい、大きく後ろへと下がってしまう。
「私の分まで、生きて。強く生きて」
最期の叫び。
涙を浮かべながら満面の笑みを見せると、眠りにつくように目を閉じる。そのまま足場ない道へと倒れるように、彼女はそこから消えてしまった。
遅れて一つ聞こえた水音。
「な……何、で」
理解出来なかった。
全てを共にすると誓い合った彼女が、何故、最期の最後で僕を裏切ったのか。
凪も終わり、潮風に煽られる中、ただ、呆然とするしかなかった。
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