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電話も繫がらない。彼女が行きそうな場所に心当たりもない。
昔はたまに二人で町の桜を見て回ったこともあったが、病気が悪化してからはそれもなくなってしまった。
彼女は昔から桜が好きだった。理由は……、なんだったか。
一度だけ理由を聞いたことがあった気もするが、もうよく覚えていない。
それこそ初めて会ったばかりくらいの時だったかもしれない。
町のはずれの大きな桜を、二人でよく見に――
「桜……、っ!」
思い出した。昔、彼女と二人で行ったあの場所ならあるいは。
とにかく、今は考える時間が惜しい。
そうして俺はまた走り出す。
この先、悔いの残らないように。
気づけば天気は荒れていた。
激しく降り続ける雨と強く冷たい風が、体温を徐々に奪っていく。
そんな中、問題がもう一つ発生していた。
「えっ……、うそでしょ……」
激しい風雨のせいで桜の花が散り始めていた。
次々と降り注ぐ花びら。その数は次第に増えていく。
「いや、そんなっ……。まだあいつに何も伝えてないのにっ……! お願いっ、待って! 待ってよ……っ!」
このままじゃ本当に何も伝えられずに終わってしまう。
それが嫌だったから桜にお願いしたのに。結局、何もできなかった。
これで本当に最後。全部終わり。
「こんなのって……」
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