マサキくんのはなし。

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 そして、毎日必ずお風呂に入る。たまーに、お酒の匂いをぷんぷんさせて帰って来た時、お風呂に入るのを忘れて寝てしまうこともあるけれど。そういう時は翌朝飛び起きて“私臭い!超臭いよおおお!”とか叫びながらシャワーに駆け込んでいるのが常だ。人間は、毎日洗うのが当たり前なのだろう。それに比べたら僕等が楽なのは言うまでもないことである。  人間の方が毛も生えてるところ少ないし、洗うのは楽に見えるのだが。そこはそれ、人間ではない僕にはよくわからない話である。 「……もう一つ、不満なことがあってさあ」  ついでだから、他にも相談、もとい愚痴につきあってもらおうと決める。僕は地面にぺったり顎をつけると、尻尾をぶんぶんさせながら告げた。 「カナさんが、最近あのスマホってやつを掲げて、僕のことを撮影するんだよ。しかもその撮影する時の声がさあ……壮絶にキモい。何であんな、猫撫で声というか?アニメ声というか?そういう声を作りながら動画撮影するんだろう。なんかネットにアップしてるみたいなんだけど」  社会人でご主人様のカナさんのことは好きだし、尊敬もしているけれど。時々、意味不明な行動にはうんざりさせられるのだ。  人間の間では、ネットにペットの動画を投稿するというのが大流行しているらしいとは知っている。しかしだからといって、あんな気持ち悪いかんじに、僕に媚びを売るような声を出して撮影するのはどうにかならないものだろうか。僕としては、普段のご主人様の声の方がずっといい。あの声を出しながら携帯を向けられると、こう背中の毛がぞわわわわ、と泡立ってしまって逃げたくなってしまうのである。  結果、言われた通りのお手やら待てやらができなくなる。  普通に指示を出すか、動画撮影そのものを諦めてほしいというのが本音だ。せめて、僕が不満に思っていることだけでも伝わればいいのだけれど――残念ながらカナさんは僕の言葉がわからない。カナさんが言っていることは全部わかっているのに、こっちが吠えても向こうには“ワンワン!”としか聞こえないらしいのだから困ったものである。 「車に乗せられて病院とシャンプー……はすごく嫌だけど、めっちゃ嫌だけど妥協するよ。でも、こっちは必ず必要なものじゃないだろ?なんかやめさせられる良い方法はないかな?」  僕が相談すると、マサキくんはしばらく考えた後――そうだ!とぴんと尻尾を上げた。そして。 「それなら、いい方法があるぜ!ようするにカナさんが、“自分が動画を撮影しようとすると嫌なことが起きる”って思えばいいんだろ?だったら、こういうのはどうだ?」  にやり、とまるで悪役のような顔をして、そう告げたのである。
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