マサキくんのはなし。

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マサキくんのはなし。

「うわあああ分かって、分かってくれるかマサキくん!君は僕の気持ちを初めて分かってくれた存在だぁ!」  僕は感激で、それはもうだくだくと涙を流した。マサキくんは“大袈裟すぎるだろ!”と苦笑いしていたが関係ない。僕は喜び勇んで、自分よりずっと小さなマサキくんに抱きついた。ああ、これが先日見たアニメで、ガキ大将が言っていたやつか。心の友、というものがまさにこれなのか! 「いやだってさ、カナさんは分かってくれないんだよ。僕は車に乗るの嫌だって言ってるのに!だって車に乗ると、行き先って二つに一つなんだもん。僕はシャンプーされるのも病院に連れて行かれるのも断固拒否したい!」 「うん、めっちゃわかる。わかるけど落ち着けクマ吉」 「うううう」  ちなみに。僕はいわゆる“柴犬”という奴である。名前はクマ吉、オスだ。美濃柴犬という、焦げ茶色の毛の柴犬である。柴犬の中でもちょっと珍しいやつらしい。クマみたいな顔と、焦げ茶の毛色が特徴。飼育頭数も全国で百五十頭くらいしかいないんだ、という話を飼い主のカナさんからは聞いている。  ちなみに、一般で流通している柴犬は、大半が信州系と言われる柴犬というものであるそうだ。これ豆知識。 「確かにね、人間の常識で言えば注射とかそういうものも健康には大事なんだって知ってるし。シャンプーしないと汚いっていうのもわかるけど。それって、人間の理屈だと思わない?だってさ、マサキくんは野良猫だから、そういうの全然しないけど元気なわけでしょ?」 「元家猫だったんだけどな、俺も」 「あれそうだっけか」 「うん」  マサキくんはふわぁぁ、と大あくびをしながら、床の上で首をかいている。相変わらず器用だ。僕も真似して後ろ足で首を掻こうと思ったけれど、なんだかうまくいかなかった。思わずそのまま後ろにすってんころりんしてしまう。逆さまになった景色に、ご主人様がいつも使っているパソコンが乗ったテーブルが見えた。  カナさんがエアコンのスイッチをきちんと入れたまま出かけてくれるおかげで、夏場でも部屋の中は快適である。できればそもそも出かけないで、もっと一緒に家で過ごして欲しいのが本音ではあるが、人間には人間の事情があるから仕方ないだろう。  しかし、世間はコロナウイルスだのなんだのというもので大変な騒ぎになっているはずである。仕事をしなくては飯が食えないのはわかるが、何故カナさんのは毎日当たり前のように出勤していくのだろうか。リモートワークとかいうものに切り替えてくれれば、もっと僕と一緒に過ごすこともできるというのに。  僕がそんな愚痴を漏らすと、僕より年上の猫であるマサキくんは“わかってねぇなあ”と呆れたようにあくびした。
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