第二の殺人事件と真犯人現る

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第二の殺人事件と真犯人現る

(六)第二の事件  結局、ヒッキーとじっちゃんは死んでしまった。残りの五人は夕食を食べ、決行は翌日にすることになった。  「リスカちゃんと拒食ちゃん、また夕食も作ってくれるのか?」  借金が尋ねると、リスカちゃんが答えた。  「今は男女共同参画社会よ。今度は男性で作って」  「わかった。じゃあ、カレーライスでいいよね」  借金が答えた。借金は自衛隊時代によくカレーライスを食べており、三・一一の時もカレーライスを作っていたので、手慣れたものであった。だから自分の調理の腕を披露したかったのである。自衛隊が訓練ばかりやっていると思われるのも口惜しい。  「いいわよ。みんないいよね」  リスカちゃんが答えた。全員が賛同した。  男性三人はカレー作りを始めたが、やはり借金は上手いものだった。残りの二人の男性は借金の言う通りに調理をした。借金がテキパキと指示を与える。 六時頃にカレーライスが出来上がった。ビーフカレーであったが、味付けはしっかりしており、ビーフがよく調理できていた。  「借金、やるじゃないか。美味い」  「確かに美味しい」  男性二人が言った。  「本当、見直しちゃった」  リスカちゃんが言った。  やがて夜になった。夕食を終えた五人は今度は男から風呂に入ることになった。全員が入浴を終えた後、借金の部屋で物音がした。  最初に女の呻き声が聞こえ、「ドスーン」という音がして、「うぎゃあ」と言う借金の悲鳴が聞こえた。呻き声の女はどうもリスカちゃんでも拒食症でもなさそうだった。  「何しやがるんだ?この女?」  そう言う借金の声がしたと思ったら、また静かになった。そして何者かが階段を慌てて降りていく音が聞こえた。この物音で隣の部屋にいた鬱が起き出して借金のいた部屋へ入った。  「おい、借金。どうしたんだ?」  鬱は何度か呼びかけてみたが、返事はなかった。何かが起こっていることは確かだった。そして、しばらくしてから鬱は思い切って借金の部屋の襖を開けた。  鬱が借金の部屋へ入ると、借金は血を流して倒れていた。うつ伏せに倒れていて、背中が鮮血で真っ赤であった。背後から一突きされたのだろう。寝間着姿で顔を横に向け、口を大きく開けて事切れていた。これはただごとではない。第二の殺人だ。背中から刺されたということは自殺ではあり得ない。誰かが背後から刺したのは間違いなかった。  「おーい、みんな来てくれ。借金の部屋まで来てくれ!大変なことになった」  第一発見者の鬱が叫んだ。そしてこの騒ぎに幻覚、リスカ、拒食症が借金の部屋へ入ってきた。  「きゃー!借金」 リスカちゃんと拒食症が同時に叫んだ。  「またかよう?いい加減にしてくれ、宇宙人。本当いい加減にしてくれ」  幻覚が言った。そして、集まってきた三人に鬱は問い詰めるように言った。  「こいつ、俺の部屋の横で『何しやがる、この女』と叫んだぞ。この犯人は決まりだ。リスカちゃんか拒食症だ!さあ、どっちだ?」 「私、男の人を殺せるような力はありません。ましてや彼は元自衛官です。私には殺せません」  拒食症が言った。  「じゃあ、リスカちゃんは?」  「どうして私を疑うの?鬱先生。私には動機がないんだって。それに拒食ちゃんと同じで自衛官だったような男を殺せるわけないじゃない」  「この死体、どうしよう?」  幻覚が言った。  「どうせみんな死ぬんだ。また毛布にくるんでヒッキーのようにじっちゃんの部屋へ転がしておこう」  鬱が言った。 「大変なことになったわね。私達、もうここで死ぬしかないのね」  リスカちゃんがため息交じりに言った。自殺しようと集まったのだが、とうとう逃げられなくなったという事態をリスカちゃんは悟ったようであった。  「本当。私達、ここで死ぬんだわ。死ぬことを拒否してもヒッキーや借金のように殺されるんだわ」  リスカちゃんの考えを代弁するように拒食症が言った。  「怖いよう、宇宙人がやったのかなあ?おい、宇宙人!どこにいるんだ?う、う、う、宇宙人、雨雨降るな降るな、頭の中のチップも取ってくれ」  「いい加減にしろ!」  鬱が幻覚をたしなめた。そして誰が音頭を取るでもなく、残った四人で借金を毛布にくるんで階下へ運んで行き、じっちゃんの部屋へ放り投げた。もう誰もが人が死ぬことに慣れっこになってしまったようだ。 *  その夜は鬱と幻覚が男部屋、拒食症とリスカちゃんが女部屋で寝た。二人そろっていた方が「殺人者」が来ても対処しやすいと考えてのことである。これも鬱の提案であった。  やがて、幻覚が寝ていることを確かめた鬱は、女子の部屋へ入って行った。そして寝ていた拒食症を叩き起こした。  「おい、起きろ。ちょっと来るんだ」  「何?一体?」  「大きな声を出すな。リスカちゃんを起こさないようにな」  そして鬱と拒食症は空いている部屋へ入った。  「お前、何の武道をやっていた?俺には分かるんだ。昨日はリスカちゃんともう少しで出来るはずだったのに幻覚に邪魔された。今日はあんたを味見させてもらう」  「何言うの?あなた本当に最低ね」  「ああ、最低だ。でも人殺しなんかしない。お前と違ってな」  「私がヒッキーや借金を殺したって言うの?」  「お前じゃなかったら誰がやる」  「私だとしたら何をするつもり?」  「こうして男と女が同じ部屋にいるんだ。わかるだろう?そこに寝ろ!」  「嫌です」  「何を?」  そう言って鬱が拒食症の肩に手をかけた瞬間、鬱の体が宙を舞った。鬱は受け身を取って立ちあがった。  「やっぱりな。どうやってヒッキーと借金を殺したんだ?それから何故殺したんだ?」  「うるさい、うるさい、そんなに女が欲しいならしてあげるわよ。もう私達死ぬんだから」  観念したらしく、拒食症はTシャツを脱ぎはじめた。  「おっと、その前にお前のジーンズの後ろにあるものを捨てろ」  「さすがね。だてに合気道なんかやってないわね」  拒食症はジーンズのポケットに隠してあった小型の折りたたみ式ナイフを捨てた。  「これでヒッキーと借金を殺ったのか?なぜだ?」  「そんなこと聞いてどうするの?私としたかったんじゃないの?」  「それもそうだ。そんなことは後からでいい。早く服を脱いで布団の上に寝ろ」  「いいわよ、でも乱暴は嫌」  「ああ、わかった」  拒食症は瞬く間にブラジャーとパンティだけの姿になった。そして布団の上で仰向けになった。細い体がなぜか痛々しい。  そして息使いを荒くした鬱が拒食症に覆いかぶさった。そしてブラジャーに手を入れて小さな乳を揉みはじめた。  「お前は初めてか?」  「そうよ。だから優しくしてね」  「わかった」  そう言って鬱は拒食症に口づけをした。拒食症は何も言わなかった。続けて鬱は拒食症を思いっきり抱きしめた。何か棒を抱いているようでまるで手ごたえがなかった。あのリスカちゃんの豊満な体とはかなり違う。そして、パンティに手を入れた。  「はー、はー」  拒食症も息を荒げはじめた。本当に初めてのようだ。  こうして、鬱と拒食症は結ばれた。    「どうして抵抗しなかったんだ。君の武術の腕なら抵抗もできたはずだ」  「だって、これが私にとって最初で最後なのよ。知ってみたかったの。それから、私はリスカちゃんが羨ましかったの。あなたが最初に手を出したのもリスカちゃんだったし、私なんか誰も相手にしてくれないと思っていたの。リスカちゃんは年下だけど何か姉御のような存在感があったわ。そのあなたを私は奪いたいと思っていた。 それから私は何があっても死ぬわ。だって、人を殺しているし、生きていたところで刑務所行きか死刑よ」  「やっぱりお前だったのか。ヒッキーと借金を殺したのは」 「残念ながら違うわ。ヒッキーを殺したのは私だけど、私は借金は殺していないわ」  「もしそうだとしたらリスカちゃんが借金を殺したって言うのか?」  「それも違うわ。でも私じゃない」  「嘘つけ」  「嘘と思われても結構。ただ、私は借金殺しの犯人を知ってるだけ」  「どういうことだ?」  「そうよ。なぜヒッキーを殺したか、どうやって殺したか教えてあげる。借金が誰に殺されたかも教えてあげる。だから服を着替えさせて」  「わかった」  こうして二人は服を着替えた。    そこへ、リスカちゃんが起きてきて、二人がいる部屋へ入ってきた。  「鬱先生、拒食ちゃんにも手を出したの?最低」  リスカちゃんが言った。  「いいの。どうせ死ぬんだから」  そこへ、幻覚が入ってきた。  「何の音だい?せっかく眠れたのに」  そう言った途端、拒食症は幻覚をはがい絞めにし、ナイフを拾ってその喉に押し当てた。幻覚は逃れようとするが、もし逃げられても拒食症に殺されてしまうことは頷けた。また、拒食症の腕が頬を的確に押さえていて動けない。 (七)真犯人   「やめてよ。何するんだ、この女」  「つべこべ言うな!テメーもヒッキーや借金のようになりたいのか?」   そこには普段の拒食症はいなかった。殺人者の女が今度は幻覚を殺そうとしていた。怖がっている幻覚に拒食症は言った。確かにいつもの拒食症とは違っていた。何か肝が据わった女に見えた。この女が殺人者だったことは、その言葉尻から誰もが納得できた。  そして、言葉を付け加えた。   「あのスレを立てたのは私よ。勿論、電話や電気を使えるようにしたのも私。練炭火鉢も私が用意した。そしてヒッキーを殺したのも私。一人殺すのも二人殺すのも一緒よ。鬱先生とリスカちゃん、動いたらこの幻覚を殺すわよ」  「わかった。拒食症。でも、なぜ彼らを殺したんだ?」  「簡単よ。先ずヒッキーだけど、あいつ、『俺と一緒に逃げよう』なんて言ってきたの。そして私の体を求めてきたの。私の体なんかどうなってもいいけど、みんなで死のうとしてるのに自分だけ助かろうという根性が許せなかったの。それで言ってやった。『いいわよ。お風呂まで来て。そこでしましょう』って。そしたら、あの馬鹿のこのことやってきたの。そこで私は武道を使ってあいつの首を掻っ切ってやったの。そのためにいつもナイフを持ってたのよ。あ、鬱先生。私からナイフを奪おうとしても無駄よ。私はあなたよりはるかに強いんだから。あなたの合気道の技なんかみんなお見通しよ。私は物心ついた頃から色んな習い事をさせられた。その中には空手や柔道や合気道や少林寺拳法なんかもあったのよ。  私はヒッキーを殺してからバスタオル一枚になって、あたかもヒッキーの第一発見者のように装ったの。わかった?  私は○○流華道の第十代家元の一人娘よ。もう結婚相手も決まっている。マザコンで弱々しい男で、これ○○流の第十一代になるの。この男にはデリカシーというものが全くなくて私のことを『太ったね』とか『今度は痩せてきたね』なんて言うの。  そしてそんなの嫌だと思っていたら、ご飯が食べられなくなって、こんなに痩せてしまったの。その後、お腹が空いて食べようとしたら何度も吐いてしまうようになったの。これが事実よ」  拒食症は言葉を付け足した。  「それから借金のことも教えてあげるわ。その前に鬱先生、財布はきちんとポケットに入っているかしら?確かめてみて」  鬱はズボンのポケットをまさぐった。先ずは後ろのポケットを見て、次に背広の内ポケット、そして次に大慌てでズボンの前のポケットも探した。  「あ、ない。俺の財布がない」  「それはもしかしたらこれじゃなくって?」  拒食症が黒革の財布をジーンズのポケットから出してつまみ上げた。  「あ、それだ。一体いつの間に?それにどういうことなんだ?」  「私、借金が鬱先生の財布を盗るところを見てしまったの。これから自殺しようとする人がそんなことをすると思う?彼は元々泥棒だったのよ。みんなが死んだ後に死体から財布を頂戴する予定だったの。彼の狙いは鬱先生のクレジットカードよ。一体いくら入っているか知らないけど、公務員だもの。何百万もあるのでしょうね。彼にとってはいいカモだったわけ。  借金は鬱先生のカードを使って女の人をこの部屋へ呼び出したの。商売女よ。デリヘル嬢。みんなが寝ている所をこっそりとね。私は物音がしたので襖を少し開けて様子を見ていたの。  すると借金は女に言ったの。  『俺はもうすぐ死ぬんだ。その前にいいことをしようぜ』  そう言って借金は女の首を締め上げたの。女は苦しそうにしていた。しかし彼って自衛隊にいたくせに馬鹿ね。すぐに女ともみ合いになったので女が後ろから借金を刺したの。その時の刃物はなぜか彼女が持っていたわ。何かおかしいと思った彼女が台所から文化包丁を失敬したようね。本当、男って死ぬ前にはしたくなるのね。ねえ鬱先生。自業自得だわ。包丁は私が捨てたわ。もうないわよ。  それから、その女の死体は下の倉庫にあるわ。これがばれたらまずいから私が殺したの。下の倉庫へこの女を連れていって首を絞めたのよ。あの人、『殺しちゃったのね、ばれないように逃がしてあげるわ』と言ったらのこのことついてきたの。嘘だと思ったら鬱先生、下の倉庫を見てきて」  鬱は言われるままに下へ行こうとして言った。  「わかった。でも俺が帰るまでは誰も殺すな」  「わかってるわよ」 鬱は階段を駆け下り、下の倉庫を見に行った。  確かに派手な衣装を着て派手な化粧をした女の死体が転がっていた。  しばらくして鬱が戻ってきた。  「確かに女が死んでいた」  鬱もリスカちゃんも絶句してしまった。  しかし、幻覚は叫び続けている。  「助けて。俺、死にたくない。死にたかねえよー」  「もう練炭火鉢なんか使う必要はないわ。ここにガスが来てるの。今から本栓を開けるわよ」  そう言って拒食症はガスの栓をひねった。勢いよくガスが出始める。  「ここで私がタバコでも吸ったらどうなるかしら?」  そう言って拒食症はタバコとライターを取り出した。  「やめろ。やめるんだ。拒食症」  「そう。こんなことやめよう。ね、拒食ちゃん。」  「ははは。お二人はそれでいいかも知れないけど、私はもう人を二人も殺しているのよ。ここから出ても自殺するよりももっと苦しいところへ行かないといけなくなるのよ。どうやって生きていくの?」  「わー。この女、怖いよう。誰か助けて」  幻覚は本当に怖かったのか、身動きも取れずにブルブルと震えていた。  「うるさい!あんたも死ぬつもりだったんだろうが!」  そう言うと、拒食症は無表情で幻覚の頸動脈をナイフで切った。血が勢いよく流れはじめた。  「うぎゃーーー」  幻覚はそのまま倒れてしまった。  「こいつ、死んだわ」  拒食症が無表情のままで言った。  そして、今度は自分の喉にナイフを当てがった。  「鬱先生もリスカちゃんもどうする?死ぬ?それか私一人淋しく死んでいくの?」               *  しばしの沈黙が続いた。その間、ガスが充満してくる。鬱もリスカちゃんもせき込み始めた。 「こんなことになるなら、あんたら全員殺しておくんだった。いいこと。昨日鍋をやったでしょう。あの時に私がガスの元栓をひねってガスを出なくするの。その後、もう一度ガスを出すの。そうするとタバコ好きの鬱先生がライターに火をつけた途端にドカンよ。分かる?ドカンよ。ははは、本当に楽しかったわ。みんなで死ぬなんてこんな楽しいことってなかったわよ」  その言葉を聞いて鬱は思った。  「(この女狂ってる、完全に狂ってる)」 やがてリスカちゃんが説得を始めた。  「拒食ちゃん、やめて。お願い。みんなで生きていこう。刑務所に入っても私達が迎えに行くわ」  「そうだ。生きるんだ」  鬱も説得をする。しかし、拒食症は全く動揺していなかった。さすがは家元の娘である。大和撫子だ。  「あなた達、そんな甘い考えでこれに参加したの?失望したわ。じゃあ、お二人とも巻き添えにして死ぬわね」  そう言って拒食症はライターに火をつけようとした。火をつけたら全員爆発で即死だ。    その時である。鬱がいきなり前方回転受け身をした。そして瞬く間に拒食症の腕を捻り上げてライターを取り上げ、ガスの元栓を締めた。  「やりやがったな?鬱め」  「やめるんだ!拒食症!こいつらは俺たちみんなで殺したんだ。警察でもそう証言する。だから生きようよ」  「そうよ、私達、みんな同罪なんだから」  拒食症はその場にへなへなと座り込んだ。  「三人だけ残ったわね。じゃあ、お二人はどうするの?私は死ぬこともできないけど---」  「三人で警察へ出頭しよう。倉庫にいる女は借金が殺した。借金と幻覚はもみ合いになて殺し合いになって死んだ。俺もリスカちゃんもそう証言する。ヒッキーは自殺だ。風呂場へ行くと首を切って死んでいた」  この鬱の言葉に拒食症は泣き始めた。  「みんな、どうしてそんなに優しいの?私はあなた達みんなを巻き添えにして死のうとしたのよ」 「とにかくストーリーを考えよう。警察で証言が一致しないといけないからな。そうだなあ、先ずじっちゃんとヒッキーは自殺だ。俺はホームセンターで拒食症と同じナイフを買ってくる。借金を殺した包丁も買ってくる。それから幻覚と借金は殺し合って共倒れになった。俺が買ってきたナイフをこいつらに握らせるんだ。勿論指紋も消す。そしてそこには女もいた。女は借金に絞殺された。それを見た幻覚と借金は殺し合ったんだ。いいね?そしてリスカちゃんは未成年だから、この件には関係がない。これからの人生もあるからな。拒食症も関係ないんだ。いいな。こう証言するんだ」  鬱が言った。  「嫌よ、そんなの。私は有罪になる。嘘なんかすぐにばれるわ。日本の警察は優秀よ」  拒食症が言った。同時に鬱がガスの栓を閉めて言った。  「君にもこれからの人生がある。みんなで口を揃えたら大丈夫だ。リスカちゃんもわかったね」  「私はそれでOKよ」  リスカちゃんが同意した。  「どうだ?拒食症は?」  「わかったわ。従うわ」  拒食症はなぜか簡単に鬱に従うことに決めたようだった。
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