・おんもに出てはいけません。

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 おんもに出てはいけません。外の鬼がそういうので、わたし達はこの檻から出ないようにしています。檻の隙間はそれなりに広くて一人ずつなら出られるのですが、自分から出て行く子はめったにいません。だって鬼に禁止されていますし、外には恐ろしいものがたくさんあるのです。そうだれかがいっていたのをだれかが聞いて、そのだれかから次々に伝わっていき、最後にわたしが聞きました。  何も聞いていない友達が勝手に外に出ようとしていたので、大変な事になる前に我が儘な子にそのことを教えました。 「そんなわけないじゃん。デタラメだよ」  笑いながらその子は檻を出て行きました。けれどちょっと行った先で二匹の鬼に捕まって、ごきりと首を折られてしまいました。手足もお人形みたいに引っこ抜かれ、血がどばどば出てしまっています。  鬼の片っぽは逃げようとした子の頭をかじりながら、わたし達に向かって笑いかけます。 「ほぅら。恐ろしい目に遭っただろう? おんもに出てはいけないよ」  でも恐い事をしたのは、そう注意した鬼です。なのに鬼は別のだれかが逃げた子を殺したといいたげな顔で、わたし達を見下ろしています。きっと他に逃げた子がいないか探っているのでしょう。  他の子は皆ぶるぶると震え、檻のすみっこに固まっています。と、ここでわたしはわたしの親友がいない事に気がつきました。鬼も気づいたようです。 「ん? もう一人足りないな。隙を見て逃げたのか。まあいい。探したらすぐ見つかるだろう」  そして死んだ子の頭を放り捨て、鬼は暗闇の奥へと行ってしまいました。  檻の中には友達がいっぱいいます。楽しいものも余るくらいあります。だから、檻に入れられた子の中で外に行きたがる子はほとんどいません。わたしもその一人です。でも、ごく稀にそういう子はいます。そういう子はこっそり紙で鬼のお面を作って被り、お布団を体に巻きつけて檻の隙間から出たりします。  もちろん下手くそなやり方なのですぐにばれ、鬼に殺されます。どうしてそんなに外へ行きたがるのか分かりません。檻の中は平和です。鬼に逆らわないようにしていれば皆安全です。死にもしません。ずっと幸せに暮らせていけます。 「あんたはなにも分かっちゃいない。それのどこが幸せなの? あいつらがいなけりゃ生きていけないなんて、間違ってるよ」
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