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河野さんは秀たちよりも年上の女子大生だが、店が混んでくると気が焦るのかよくミスをする。
要領が悪いって、こういうことなんだなぁ、とバイトを始めてから知った。
だが、そういうときのフォローが秀は上手ではなく、最初はその失敗を横目で見ながら自分の仕事から離れることができなかった。
ほかのバイトや社員の人たちは、彼女に注意やアドバイスをする。
が、いっぱいいっぱいモードになってしまっているときの河野さんは、それを受けとることができない。
さりげない助太刀の仕方を知ったのは、景冬が入ってからだった。
景冬だって特別要領がいいわけではないし、仕事を覚えるスピードだってそんなに早かったわけではない。
でも、人のフォローがうまいのだ。
本人のプライドを傷つけず、思いやりのある助けかたをする。
そんな景冬のやりかたにならって、秀も余裕があるときは河野さんのミスをフォローできるようになった。
さりげなく河野さんのうしろにまわり、ぶちまけたドーナツの種類を確認する。
当の河野さんは顔を真っ赤にして客に謝っているが、手は既に震えていて入れ直そうとするトングさばきもおぼつかない。
商品ケースから河野さんがぶちまけたドーナツと同じものを取り出してトレイに乗せ、横から河野さんのところに差し出す。
「ありがとうございます」
河野さんのささやき声を耳でとらえながら、ささっと散らばったドーナツを回収した。
どうやら寛容なお客様だったらしく、嫌な顔一つせず詰め直しを待っていてくれた。
やがて、ユニフォームに着替えた景冬がレジに入った。
勤務時間が終わった河野さんは改めて秀に「さっきはごめんなさい」と小声で言ってバックヤードに下がっていった。
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