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 平日のこの時間は、カフェ利用の客が多い。  イートイン席は、七割ほど埋まっている。  かと言って、テイクアウトの客が少ないわけではない。  とくに今日から発売のバレンタインむけのチョコレートメニューはイートインでもテイクアウトでも飛ぶように売れた。  雪子も、チョコレートが好きだった。  そういえば、雪子から最後にバレンタインのチョコを貰ったのはいつだったろうか。  巷の女子の間では友チョコと称して友人同士で贈り合うために、手作りチョコレートを作るのが昨今のはやりだが、雪子はそれがめんどくさいと言っていた。 「くれた子に、ホワイトデーに返すんでいいや」  そう言っていたのに、結局ホワイトデーどころかバレンタインも待たずに逝ってしまった。  そうだ。  雪子はここのドーナツが好きだったのだ。  それなのに秀は、一度もここのドーナツを家に買って帰ったことがない。  どうして思いつかなかったのだろう。  今日は、雪子の好きそうなメニューを買って帰って供えてやろう。  どうかあの新商品、売り切れませんように。  景冬が、河野さんに変わってレジに入る。
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