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「いらっしゃいませー」
バイト中なのに涙ぐんでいた秀は、入店してきた客を見て驚く。
「う、うららちゃん」
慌てて、鼻をすする。
ピンクのキャリーケースをガラガラひっぱったうららは、微笑んで会釈をした。
笑うと涙袋がぷっくりするのが離れていてもわかる。
そのまま彼女はトレイを持って商品を選び始めた。
景冬の様子をうかがうと、隣のレジで接客中だ。
おそらく今の秀の反応には気づいているはずだが、客から注意をそらすことはない。
うららは秀のレジへやってきた。
「バス、これから?」
彼女は頷く。
指を六本立て、次に三本立て、口元が「ろくじはんです」と動く。
「じゃ、これはバスの中で?」
うららは首をふって、店内奥のテーブル席を指差す。
それから、メニューのカフェラテを指さした。
「店内でですね。カフェラテはホット?」
うんうんと、大きく頷く。
艶やかなストレートの黒髪が揺らぐ。
ほんと、元気な子だな、と感じる。
精神的な理由で声が出せないなんて、不釣り合いに思えた。
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