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「よくここの店がわかったね」
秀の声音も、なんだか優しくなってしまう。
うららは、一つ大きく頷いてえくぼを作って笑った。
大方、母から店を聞いたのだろう。
会計を済ませて、温かいカフェラテを入れる。
この子にまた会いたい、と思った。
会って、雪子のことを聞きたい。
あの動画にあったような生き生きとしたピアノを生で聴いてみたい。
生きている人を、そしてその人たちと一緒に生きる自分を大事にしたい。
秀に初めて湧いてきた感情だった。
カフェラテをうららのトレイにそっと置き、「ごゆっくり」と秀も笑った。
多分、うららに向けた初めての笑顔だった。
ちょっとだけでも景冬とことばを交わしたかったが、しばらく客足が途絶えなかった。
けだるい甘いかおりの店内で、ドーナツを詰めたりレジをうったりしているうちに、うららが席を立った。
行くのだ。
客は途絶えない。
うららは、秀の前で会釈をすると、ひらひらと手をふった。
秀はことばを返せない代わりに、精一杯の目礼を返した。
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