1人が本棚に入れています
本棚に追加
安楽島真が見た涙②
安楽島は一連の騒動を目の当たりにし、罪悪感に苛まれた。
安楽島さえ黙っていれば、哀川は一喜と怒火を上手く誤魔化せていたのだから。
「……哀川、ごめん。俺のせいだ」
安楽島は席に座ったるいに謝った。
るいは空色のハンカチで涙を拭いながら「安楽島君のせいじゃないよ」と小さく首を振った。
「私が悪いの。私が、一喜君からラブレターなんかもらっちゃったから」
「でも、哀川だって一喜のことが好きなんだろ? 下駄箱でラブレターを見てた時、すっげー嬉しそうだったじゃん。怒火に遠慮して、自分の気持ちに嘘をついてもいいのかよ?」
安楽島が下駄箱で見た哀川は、確かに嬉しそうだった。安楽島に見つかったことに戸惑ってはいたが、口角は上がり、声は弾み、顔は赤らんでいた。
まぎれもなく、恋をしている人間の表情だった。
「自分の、気持ち……」
哀川は目を伏せ、唇をかむ。暴力という形で怒りをぶつけられてもなお、哀川は怒火に遠慮しているらしかった。
その時ふと、哀川が窓から中庭を見下ろし「あっ」と声をもらした。
「一喜君……」
「一喜? どこどこ?」
安楽島も窓から中庭を見下ろす。
一喜は中庭の木に寄りかかり、物憂げに空を見上げていた。じきに昼休みが終わるというのに急ぐ様子もなく、ぼーっとしている。
そんな一喜を見る哀川の目は、寂しげだった。口をつぐみ、本心を押し殺しているように見える。その表情を見た安楽島には、彼女が一喜への想いを絶ったとは思えなかった。
「……一喜に本当のこと、話しに行けば?」
哀川の表情を見て、安楽島はポツリと呟いた。
「えっ、でも……」
哀川は安楽島の言葉に驚き、ためらう。
それでも安楽島は「いいから、いいから」と哀川の背を押し、教室から出した。
「先生には上手く言っとくからさ、本当の気持ち伝えに行って来いよ。じゃないと絶対、後悔すると思うぞ」
「で、でも、それじゃ萌ちゃんが可哀想……」
「そうか? 怒火も本当のことを言って欲しいと思ってるんじゃないか? 俺なら、ずっと嘘つかれる方が嫌だけどな」
「……そっ、か」
哀川は安楽島の言葉に迷いが吹っ切れた様子で頷くと「行ってくるね」と走り出した。教室へと戻ってくる生徒達のわきをすり抜け、中庭へと向かて行った。
最初のコメントを投稿しよう!