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哀川るいの涙④
中庭にたどり着くと、ちょうどチャイムが鳴り響いた。
一喜君は授業をサボるつもりらしく、チャイムが鳴っても木に寄りかかったまま動かなかった。
「一喜君」
私は一喜君に近づき、恐る恐る声をかけた。自分でも声が震えているのが分かる。
一喜君は私に気がつくと泣き腫らした目を向け、ハッと木から起き上がった。
「あ、哀川……」
私は震える両手をグッと握りしめ、口を開いた。
「あのね、一喜君。私、一喜君に伝えなきゃいけないことがあるの」
口の中が異様に乾く。
心臓の音が、うるさいくらいハッキリと聞こえる。
呼吸が荒く、息が苦しい。
緊張で涙が出そうになった。
(ダメ……ちゃんと、一喜君に伝えないと)
私は緊張を和らげるため、胸に手を当て、深呼吸をした。ほんの少しだけ、心が落ち着いた気がした。
私は意を決して、一喜君に言った。
「私……一喜君が好き。本当は一喜君からラブレターもらって、すごく嬉しかった。どうか、私と付き合って下さい」
一喜君はぽかんと口を開いた後、満面の笑顔を浮かべ、頷いた。
「もちろん! 俺も哀川のことが大好きだよ!」
その瞬間、私は喜びで胸がいっぱいになり、目には涙があふれた。
安楽島君が勘違いした時とは違う、本当の嬉し涙だった。
ふと教室を見上げると、安楽島君が窓から私達を見て、泣いていた。
私が手を振ると、安楽島君も笑顔で手を振り返してくれた。一喜君も安楽島君に気づき、手を振る。
「彼、君のクラスメイトだよね?」
「うん。私の告白を応援してくれたの。泣いて喜んでくれるなんて、本当にいい人だよね」
私は背中を押してくれた安楽島君に、心から感謝した。
安楽島君にも好きな人はいるのかな? もしいるのなら、今度は私が安楽島君の恋を応援してあげたいな。
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