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安楽島真が見た涙③(終)
安楽島は中庭にいる哀川と一喜の様子を自分の席から眺めていた。既に授業が始まっていたが、安楽島はそれどころではなかった。
哀川は一喜と二言三言話すと、ほっとした様子で顔をほころばせた。
瞳を潤ませ、涙を流す。下駄箱で見た時とは違い、心から嬉しそうだった。
(告白が成功したんだな……)
そう悟った瞬間、安楽島の目にじんわりと涙がにじんだ。
(やっべ)
急いで袖で拭おうとするが、涙は意識とは無関係に止めどなく流れた。頬を伝い、ノートにポタポタと垂れ落ちる。幸いクラスメイトも教師も、安楽島が泣いていることに気づいていなかった。
ふいに、哀川が教室にいる安楽島を見上げた。安楽島が泣いていることに気づいているのかいないのか、笑顔で手を振ってくる。
(あぁ……本当に嬉しそうだ)
安楽島も無理矢理笑顔を作り、手を振り返す。
哀川の隣にいた一喜も安楽島に気づき、手を振る。揃って手を振る二人は微笑ましく、似合いのカップルだった。
(……哀川の気持ちが届いて、良かった。好きな人には幸せになってもらいたいもんな)
安楽島はポケットに手を突っ込み、丸めた空色の封筒を握りしめた。
封筒にはハートのシールが貼られ、涙で滲んだ文字で「哀川へ」と書かれていた。
(終わり)
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