白陶に山吹

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一度閉めた扉をそうっと押し開く。 細い隙間から目を凝らすと、やはりそこでは異様な光景が繰り広げられていた。 「…なんだあいつは…?」 思わず口の中で呟く。 それはほんの数分前のことである。 遅い昼飯を摂ろうと部屋から出て、今日はカレーうどんの気分だな、昨日の昼もカレーだったが… などと思い巡らした瞬間、向こうからやってくる人影の異様さに目を剥いた。 姿かたちからしておそらく少年。 やけにふわふわとした立ち姿、夢遊病患者のような足元の頼りなさも気になったが、 なにより目を引くのは彼の周りである。 赤、青、黄、緑、鮮やかなのからくすんだ色のものまで。やけにカラフルな毛玉が少年を取り囲み、彼は半ば毛玉に埋もれてしまっていた。 さながらハムスターの大群に乗っかられている飼い主、餌やりの時間の飼育員……。キッ〇ロの増殖、いや、毬藻の逆襲に遭ったラッコ…………? いや違う、例えの話はどうでもいい。 あの毛玉の存在は知っている。 俺がここに来た時から、それは既にここに居た。 最初はキーホルダーだかストラップだか、その類のものだと思った。誰かの落し物だと。 最近の子供たちはよく持ち物にああいったぬいぐるみを付けているからな。 落し物はカウンターに届けなければ。 そう思ってしゃがみ込み、拾おうとすると、 指がそれをするっとすり抜けた。 通り抜けたんだ。まるでそこにものが無いみたいに。 確かに目に見えるのに、触れることができない。 なんども触ろうと試みていると、突然その塊がそわりと動いた気がして、 一気に気味が悪くなり、手を引っ込めてそそくさと部屋に戻った。 手を洗っても洗っても、小さなかたまりをすり抜けて触れた冷たい廊下の感触が消えなかった。
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