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確かに俺は、あの毛玉の存在を受け入れた。
しかしだ、この光景はなんとも受け入れ難い。
そもそもあれは、人間には無関心だったのだ。触れることもできないし、あちらから触れられることもない。
だから、少年にまとわりつき頭の上に乗って運ばれているこの状況など、本来ならば有り得ないのである。
それにあの少年だ。
ふらふらと歩いては床にしゃがみ込み、なにやらぶつぶつと呟いている。
かと思えば立ち上がって朗らかに笑う。
ふんふんと鼻歌まで歌って上機嫌である。
どうしたものかと思案するうちに、
少年が扉のすぐ手前まで近付いていた。
そして唐突にしゃがみ込む。
彼の足元には、白い毛玉が居た。
「真っ白だぁ。可愛いなぁ〜〜もふもふ…えぇと…………17…?いや18……うーんやっぱ17号!」
ーーーは?
停止した思考を無理矢理働かせる。
ーーー見えているのか?
俺は思わず扉を開け放ち声を掛けようとして、あやうく踏み留まった。
こういうのは、いつもより余計に慎重にならなければダメだ。
怪しまれないように。さりげなく。
普通の大人ならば、この場面に遭遇した時どうするか。
そっと扉を開き、後ろ手にゆっくりと閉める。
忍び足ではない、しかし控えめな足音の加減に気を遣いながら少年に近付く。
「ーーおい、」
少年は気付かない。
「ーーおい、きみ、」
彼は顔を上げない。
仕方なく、正面に立って中腰になる。
「ーーおいきみ、大丈ぶッッ!!!!?!
ーその瞬間、俺は顎にものすごい衝撃を食らって体勢を崩し、硬い廊下の床に頭をしたたか打ち付けた、
ような気がした。
慌てたような泣きそうな顔の少年がこちらを覗き込み、何か言っている。
彼の周りの毛玉らも、ふよふよとどことなく不安げで落ち着きがない。
その光景に何故か見覚えのある気がして、
無意識のうちに口角が微かに上がった。
ーー大丈夫だ、
呟いたはずの言葉は、彼に届いただろうか。
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