それだけの話

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そしてあの日、僕は母に「捨てないで」と泣き付かれました。 「私は捨てられる」と。 父はどうやら他の女と母で二股をかけていたようです。 それに気づいた母は「私はどうしたらいいの」僕の首を締めて言いました。 「あんたがいるから」「あんたなんかがいるから」と僕の首を締めました。 僕はもう、死んでもいいと思いました。 これで楽になれる、と思った時、母の手の力が緩んで「ごめん。ごめんね」と僕に抱き付いてきました。 「あんたがいなかったら、私、どうしたらいいの」とさめざめ泣く母を見て、僕はもう限界なのだと悟りました。 テーブルの上に広げられた赤字の督促状。頻繁にインターフォンを鳴らすスーツの男達。ああ、母は追い詰められているのだと。 そうしたら、楽にしてあげた方がいいような気がしてきました。 僕は母に聞きました。 「ねえ、死にたいの?」と。
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