No Name

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   「最近楽しそうだね」  カメラの充電終わりに、鼻歌なんか歌っているのを姉の茜音(あかね)に指摘される。  別に、と言いたいところだが、自然に口元が緩んで「まあね」と答えていた。  茜音とは仲が悪いわけではないのに、ここ一年ほどは日常に必要な最小限の会話しかしていなかった。それが久しぶりに会話が続いて、元々カメラを教えてくれたのはこの姉なのだから、糸口さえあれば互いの共通の趣味について話すことができる。なのにそんなことも忘れていたなんて。  思春期特有の他者への拒絶や反抗心──根底には自身の自己肯定感の低さがあったのだが──それが出てからは同級生どころか家族にまで境界線を引いていたのだ。  それがどうだろう。蒼依一人の力でこんなにも簡単に線は(ほど)けていく。澄み切った青空のような存在の蒼依は、周囲も同じアオに染めていくのだろうか。 「俺、明るくなったように見える?」  突然の問いかけに一瞬目を丸くする茜音だが、久しぶりに見る弟の笑顔にすぐに笑顔で答えてくれた。 「うん、眩しいくらい!」
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