蒼天

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 なにからこんな流れになったのか。  今、息吹は蒼依が運転する自転車の後ろに座り、自宅へと向かっている。 「二人乗り、見つかるとマズいから飛ばすぞ。捕まれ」  そう言われて、思っていたよりも細い腰に両手を回した途端、一瞬だけ見上げたはずの空が視界に張りつくほど速いスピードで自転車は走った。  まるで空の青に吸い込まれるような疾走感。蒼依の体温に溶けてしまいそうな熱感。違反をしていると言う背徳感。それが相まって体が興奮に包まれているのがわかる。 ***  先週、いつから写真をやってるんだ、と蒼依が聞いてきた。 「茜音の影響で中学に上がる頃かな」 「一個上のお姉さんだっけ。ニ人とも写真やるんだ?」 「うん、まあ家族全員好きなんだけど。だから家の中は写真や機材だらけだよ」 「……見てみたいな」  蒼依がポツリと言った。 「え?」  蒼依は、今までの息吹の作品や息吹の家族が撮った作品を見てみたいと言った。  いつ、という具体的な言葉は出ず、社交辞令だったのかも知れないが、息吹の頭には蒼依と放課後を過ごせる? というほのかな期待が浮かんだ。 「おいでよ。俺の家。いつなら来れる?」 「え? 急だな。でも……来週なら」  答えをもらった息吹は心の中で叫びたい衝動に駆られた。  そんなふうに、家に蒼依が来るだけでも嬉しいのに、今は二人乗りまでしている。  近づいた体の分だけ心の距離も近づける気がして、自転車の振動に乗じて蒼依の腰に回した手に少しだけ力を込める自分がいた。
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