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共働きの両親は夜まで不在。中学から女子校に行った姉が帰るまでにはいま少し。
昼休みにニ人で過ごしているとはいえ、場所は解放された屋上だ。他にも生徒は多くいて、密室で二人になったことなどない。
(別に密室じゃないし!)
浮き足立つのは、友達が部屋に上がることなんて小学校以来だからだ、と自分に言いわけをした。
階下にもあるいくつかのアルバムを抱え、震える手がグラスに注いだジュースを溢さないよう、静かに階段を上がる。
部屋では蒼依が、壁に飾られた風景写真に見入っていた。
「今は空の写真が多いけど、息吹は風景をたくさん撮るんだな」
「うん。父さんも母さんもそう。茜音だけがポートレートかな」
「ポートレート?」
「人物、ってこと。茜音は昔から人の表情を引き出すのが上手いんだ。ほら、これとか」
息吹はリビングの棚から持ってきたアルバムの一ページをめくる。
幼い子供が花冠を持って笑っている写真は生命力に溢れていた。
「これ……」
蒼依はそれを凝視した。
「アオ?」
どうした、と続けようとした時、ドアのノック音と茜音の声が重なった。
「息吹? 誰か来てるの? 今からひと雨来るらしいから、自転車をポートの下に移動したら?」
「そうなの?」
息吹はドアを開けて茜音に確認する。
だから私も急いで帰って来たんだ、と茜は言いながら、視線を部屋の中に移した。
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