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「あ」
蒼依と茜、両方の視線と声がぶつかる。それから蒼依は「やっぱり」と続け、茜音は「会ったことあるよね!」と指を指した。
「え?」
掴めないのは息吹だけだった。
二人は息吹など見えないかのように互いだけを視界に入れていた。
「あの時はありがとう。あなたの写真、校内展で銀賞だったのよ」
「そうなんだ! あれ、二年くらい前だよね」
はしゃぐ二人に息吹は躊躇する。けれど、ゴロゴロと鳴る雷がなんとなく嬉しくない予想を連れてきて、やがて、降り注ぐ雨に濡れたように指先から冷えていった。
蒼依と茜音は二年前に出会っていた。
部活の「見知らぬ人に撮影を依頼して表情を引き出す」という強行企画で、公園でバスケットボールの練習をしていた蒼依に声を掛けたと言う茜音。
当時の茜音は突撃撮影に慣れておらず、企画内容と、自分がどんな写真を撮っているのかを説明するのに精一杯で、自身の名を告げるのをすっかり忘れていたと言う。
「その時に見せてくれた写真の一枚がこれなんだ」
蒼依の指が花冠の少女の写真を指す。
「俺、あの時期バスケが上手く行かなくて腐ってたんだけど、写真が大好きっていう気持ちや、楽しそうに撮影する姿に励まされたっていうか。撮ってもらった写真も凄く生き生きしてて、自分がバスケを好きなのを思い出させてもらえたんだ」
懐かしそうに目を細めて蒼依は言った。
「でも、撮影が終わったらすぐに行ってしまって……なんでか心残りで。そしたら高校で、そっくりな容姿で写真をやってる息吹がいたんだ」
「ああ! 私と息吹を」
────間違えたんだ。
茜音が言うまでもなく、息吹は全てを理解した。
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