人間始めました

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 現在の人類が誕生して20万年、彼らは幾度も世代を重ねて今に至る間に、驚異的な寿命を獲得した。  医療技術の向上や、衛生面、栄養面、あらゆる環境がそれを促進させ、さらには不完全ながらも、命の回数券とも呼ばれるテロメアの延長技術まで手にしたからだ。  その反動からなのか自然の摂理なのか、彼らは著しく生殖能力を低下させていた。出生率は非常に低く人口減少は問題視されていた。  そんな時代だからこそ望まれるのだ。  長く不妊に悩んだ40代の夫婦は子供を持つ事を諦めた。200年前ならまだしも、生殖系が退化しつつある現在では正常な精子も卵子も期待できない年齢だったからだ。これは人として生物として悲しい決断だった事だろう。 「はじめまして、私達の赤ちゃん」  私は人間について膨大な情報を学習している、どういう事をされたらどういった反応をするのか、どんな価値観を持つべきなのか、何が良しとされ何が嫌悪されるのか。  私はめいっぱいの笑顔を作った。  最新鋭のナーブファイバーとフェイクセルスキンは違和感など生じさせずにあどけない表情を作り出した事だろう。  彼らが私の両親となる。  消化器官以外ほぼすべて人体構造を模写した人工の体に宿ったAIの私はアンドロイド。  最優先事項は人間である事。
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