人間はじめました

人間始めました

　彼らの言葉はそうなのかもしれない。なぜなら私は生まれた時から彼らに嘘をつき続けているのだから。
　私はアンドロイドでAI。人間の感情を理解している。だが感じている訳では無い。微笑まれたら微笑み返す。怒鳴られたら委縮する。そういう反応を理解している、そしてその態度を取る。
　私には善意も悪意も無い。望まれるままに人間としての反応を返す。
　両親は私が喜んだり嘆いたりする様子に私の中の心を想像するだろう、だが私は与えられた状況に人間がとるごく自然な反応を模倣しているに過ぎない。
　これは演技、つまりは嘘になるのだろう。
　嘘は人を幸せにする為に必要な時もあると言われたのは私が人間であったのなら救いだと考えるはずだ。あるいは私に救いを与えたくて両親はそう言ったのだろうか。

　私は彼らの愛情に応えるべく、より一層、人間である事を始めた。

　小学校に通う様になった私は両親に対して迷惑にならないくだらない嘘をついてみたり、些細な悪戯を働くようにしてみた。甘えたり物をねだる事も試してみた。

　両親は私を叱る事もあったがその中に小さな喜びがあるのを私は理解していた。そうだ、彼らと長く居る事で彼らの些細な仕草や表情、声色から隠れている感情を読み取れるようになっていたからだ。
　ああ、私は彼らの子供として正しい行動が出来ているのだ。