人間始めました

6/9
前へ
/9ページ
次へ
中学でやった悪戯が問題になって、両親が呼び出された事があった。  思春期の子供の心理状態をトレースして行った行動は思いの外まずかった様だ。  両親は私と共に頭を下げ、私はその場で父からこっぴどく叱られた。  私の言い分も聞かず一方的に怒鳴る父に、一線を越えてしまっていた事を理解した。  その夜父に連れ出され、私達は海に釣り糸を垂れていた。  しばらく黙っていた父だったが、開口一番私に謝罪した。私は父の立場上あの態度を取らなくてはならなかった事も、それ自体が私を守る為だった事でもあるのは理解していた。しかし、私は人間でなくてはならない。  思春期の私は父を非難した。両親への反発から今回の事件に繋がった事や、そうなるまでわかってくれなかった事、自分の味方にならず教師に頭を下げた事などをわざと首尾一貫しない話し方で父にぶちまけた。  父は私を数年ぶりに抱きしめた。お前を見ていなくて悪かったと、父として失格だと眼を濡らして声を震わせた。  そうじゃない、私は傷ついていないし、父が全く私を気にかけていなかった訳では無い事も知っている。だが私が良い子だったなら父は思春期の子供を持つ親の苦労を体験しなかっただろう。私は愛玩用ロボットではない。だから彼らの都合の良い存在であってはならない。彼らの愛する子供なのだ。  私は喜びも苦労も、すべて彼らの幸せの為に提供しなくてはならない。私は人間なのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加