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ゴキ神の最後
それでも、アーレ・ノアーレは神だった。
「我を駆逐するだと?人間如きが!我を何と心得る?!馬小屋に放り込まれた貧乏な夫婦の腹から、かの造物主ヤハウェが産まれた時、空に星が走り、3人の賢人が子が産まれたのを祝福に訪れた時、申し訳程度に嫁が齧っていたリンゴを食ったのが我だったのだ!みなしごの貧乏な人間がいい年して洞穴に住んでいた時、突如天使が降臨し、奴がヒャッホーしていた時、奴の食い残しの駱駝の肉を食っていたのが我だ!どうだ凄いだろう?!我を見かけたら100匹の我がいるのは嘘ではない!どうだ!ひれ伏しメスを捧げるのだ人間のオスよ!」
「ただ歴史的瞬間のよそで残飯食ってただけだろうがお前はああああああああああああああ!!ここまで存在がしょうもない神がいるのか?!」
まあ長生きなゴキだなあ。という程度の感想しかなかった。
「貴様等人間はいつもそうだ!神なのだぞ我は !それを貴様!我をしょうもないと言う気か?!我はニュクスやハデス!シルヴァヌスと同列の存在だと言うのに!どこが下等なのだああああああああああああああ?!貴様等が一匹の犬になった時、貴様等が放り出した糞を食うのは誰だと思っているのだ?!あばあああああああん!」
フーフーと鼻息を上げて、アーレ・ノアーレをちゅどーんしたのはアリエールだった。
「誰がーーメス犬ですの?」
ああ、やっぱりこうなるのか。
この話題は禁句だ。でも、アフガンハウンドになったアリエールは可愛かったなあ。
耳がピコピコ尻尾ブンブンでママの匂いが凄くって。
「か、神を吹き飛ばすとは愚かなメスめ。貴様等が我にかなうはずがあるまい!見よこの俊足を!貴様等に我が影が追えるものか!あばあああああああん!」
点で追えなきゃ面で制圧するだけだろうに。
アースツーでも文句なしに最高の爆裂魔法の使い手だもんな。
「ど、どうしあばあああああああん!ちょっと待って、あばあああああああん!待ってって言ってるでしょおおおおお?!あばあああああああん!うがあああああああああああ!神にそんな魔法効かないんですう!あばあああああああん!効かないっつってるのにいいいいいいい!あばあああああああん!」
確かに神には効かないが、この黄金の馬鹿は今人間形体でしかも俺に変身している。
「あっばああああああああああああん!!」
空高く吹っ飛んで落ちてきた。
「もう何なんだよう!俺が虫だから?!俺だって一生懸命生きてんだよ!なのに!お前等は俺の仲間を殺したり、爬虫類の餌にしたりして俺達の尊厳を奪い続けてきた!アースツーにはホイホイもバルサンもなくて、ようやく仲間達と平和に楽しく暮らしてれば!またバルサンかよ!やった馬鹿探したらメスだったんで孕まそうとしたよ!俺は!確かに金色だし神だけど!それでも!俺は!」
泣きながら、アーレ・ノアーレは叫んだ。
「俺はゴキブリだよ!それで悪いか!」
「悪いに決まってますわ。貴方が悪い訳でなく、生まれたのが悪い訳でもありませんの。でも死ね。ゴキブリなら死ね。全然間違っていなくても、ゲジゲジとゴキは死ね。ただそれだけですわ」
ぶるぶると震えたアーレ・ノアーレは言った。
「だったらお前が死ねえええええええええええええええ!!サバイバルダンストライアルダンスあああああああああああああ!」
そう言ってやおら跳躍した。
「あの馬鹿キレた!しょうがない!俺を信じて受け入れろアリエール!」
「ええ!ゴキなのが残念ですが」
「よし行くぞ!お前の魔力、俺が借りた!」
アーレ・ノアーレが、ジョナサンがいたところを粉砕していた。
「死ねえええええええええええええええ!人間!俺は勝利するぞおおおおおおおおおおお!寺ほますううううう!ーーう?」
体が固まっていた。
背後に転移した、アリエールを抱えたジョナサンが、アーレ・ノアーレに移動阻害魔法をかけていた。
「お前が神なのは解った。だが、俺達は負けない。アーレ・ノアーレ。原初に帰れ」
「何だ?この力は?俺が動けないだと?」
「魔力強奪。俺が手にした力だ」
まもなく、虫神アーレ・ノアーレは敗北する。
それは、魔力の弱い元ブロンズのジョナサンが、神に一歩近づいた証明だった。
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