空中機動要塞墜落

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空中機動要塞墜落

 ジョナサンは、強敵を倒したカタルシスに浸っていた。 「あれだな。神は神でもタナトスなんかとは大違いだったな。ってあああ、アリエール、母娘で疲れちゃったんだな。可愛い♡ん♡」  ジョナサンのキスにウットリしていた。 「疲れましたわ。家に帰って眠りたいですわ」  うん♡優しく添い寝してやろう♡たゆんたゆんのおっぱい揉みほぐしてやろう。  ジョナサンのワンちゃんはピョコワンしていたという。 「んだども、みんな困ってただよ。まんず迷惑迷惑」  キッチンで出会った2メートルのゴキのおっさんだった。 「おう。でも、神だったんだろう?」 「あのダラアっ公は神を気取ってただけだあ。たんだの(かめ)モドキだべ」 「かめって。じゃあ、神はいたんじゃないか?でなきゃあ。ーーあ」  おっさんの体が金色に変わっていった。 「救星の勇者たらいうんはどんな人間と思っただが、儂さ助けてくれただ。まんず礼を言うだよ。流石は勇者である」 「すると、あんたは、本物の」 「儂は小さな命の趨勢を見つめる者。アーレ・ノアーレ。要するにである」  ああ。うん。土星谷の近くにいたよな。  あれには引き込まれた。  ってことは、もしかして、糸井さんも神様なのか? 「ジョナサンよ。お前は命を決して粗末に扱わぬ男だ。お前が守る全ての命が、お前に感謝している。お前可愛い愛人母娘であるが」  あ、ついさっきまで虐殺してたんだよな。  こいつがさりげない本物の神であることは解った。  改めて思った。勝てる気がしない。  ほとんど全部出しきって偽神だったし。  よいよい。アーレ・ノアーレは気安く言った。 「種は絶えてはおらぬ。アースワンでは我等は生きづらかった。アースツーにも恐ろしい人間はおる。人間の残飯は美味いが、我等は雑食。あの世界樹と共に生きよう。さらばだ救星の勇者達よ。だば」  だばって言ってゴキ神は、世界と共に消えていった。  とんでもない存在だった。  虫舐めたらいかんな。大体俺はゴキだって全然気にしない。 「何だか、神に守られた気分ですわ」  ロージーとロズウェルは心地良さそうに、ママの胸で眠っていた。 「そうだな。あいつは命の守り神だ。虫だけじゃなく全てを見ていたんだ。アーレ・ノアーレは、きっと、命そのものだったんだ。海で生まれて海に還るとゴーマは言ってたよ。金色だったしな」 「ええ。(わたくし) 、あれと平然に相対してましたわ。もう虐殺はしませんわ。あれだって、きっと、命ですもの」  ああ。そうだな。あ。  ポケットから、ジョナサンはそれを取り出した。 「偽神がしゃぶってたものだ。吹っ飛んだ時、転がってたのを拾っといたんだ。でも、これ、アーレ・ノアーレが命を吹き込んだんだな。魔力の鼓動を感じるし、見ろ。花が開いてる。アーレ・ノアーレの素敵なプレゼントだよ。まるで」 「ええ素敵。これが、賢者の石ですのね。先生?」  ん?アリエールが差し出したのはやっぱり左手で、薬指がピクピクしてて。  そう言えば、やってなかったんだよな。 「愛してますわ。先生♡」 「愛してるよ♡可愛いアリエール♡」  ローズルビーが、薬指に通っていき、そして、  パタパタと羽音を立てて、ゴキが一匹、アリエールの指に止まった。  ルビーの花に虫が止まるのは本当だった。ゴキだけど。 「ん?」 「ぎ、ギギギ。ぎゃああああああああああああああす!!!」  やっぱり駄目だった。完全にキレたアリエールの指輪が光を放ち、キッチンをちゅどーん。それに飽きたらず、滅多矢鱈に周囲をちゅどーんしていった。 「あばあああああああん!アリエールううううううう!」 「やっぱり駄目なものは駄目ですわあああ!ゴキは皆殺しですわああああああああああ!」  伝声管からアラームが鳴った。 「えー。総員退避。機関部がやられたでよー。城は沈む」 「ふざけんなあああああああああ!最後まで残れ!城と運命を共にしろおおおおおおおおおお!ヨーゼフ!ジジイ!お前は!」 「ああああああ?一緒に沈めだあ?今日日そんなこと言う馬鹿があるもんかね。ソルスに焼かれろ。変態野郎」 「総員逃げまーす!ソルスに焼かれろロリコンがああああ!」 「我が城は、最悪のロリコンと共に沈む。我が操艦は一ミリの狂いもなく海に向かうものなり。死ねロリコン。ヨーソロ」 「ぎゃあああ!彼氏とのデート写真壁に貼ったままなんですよ?!全部あんたの所為よ!このロリコンの変態!バーカバーカ!」 「どいつもこいつも!俺王様なんだけどよおおおおお!」 「死ねえええええええドスケベ国王!お嬢様だけ置いてけ!」 「ロージーもロズウェルも俺達の子供!お前等なんかに渡すかああああ!あばあああああああん!」  兄妹を抱き締めて、ジョナサンは叫んだ。  薔薇の令嬢は、ヒイヒイ笑いながらクルクルと回り、全てを吹っ飛ばしていった。  海岸線には、父親と久しぶりの里帰りを満喫したイゾルテ・フレイア・エルネストと、一応息子のマリオン・フレイア・エルネストが、遠い目で沈み行く我が家を見つめていた。 「ママ。パパが来るとこうなるの?」 「そうね。マリオン。きっと沈んでる。しぇんしぇいが。あなたのパパが」  どうせ、ろくなことがなかったのね。里帰りして帰ってよかった。 「あ、沈んだ」 「不沈要塞って呼ばれてたのに。流石はしぇんしぇいね。マリオン、部屋をとっておいて。今日は一緒に寝よう」 「私にイタズラしないでね」  夕暮れの海に、巨大な水柱が立ち、波が性的に危うい母子の足を浚った。  全てが静かになった後、そこには、泡沫を浮かべてうつろう白波だけがあった。  ダインクーガー1号城は沈んでいった。 「何が白波だボケえええええええ!」  そして、ザブンと浮かんだ救命艇のハッチが開いて、ジョナサンは叫んだ。 「こんなオチあってたまるかああああ!お前が!お前がやったんだなアーレ・ノアーレボケえええええええ!」  とりあえず、やっといた。  夕陽にゴキの幻影が見えた。 「背中向けて前足立てんじゃねええええ!カッコいい訳あるかあああああああああ!覚えとけよおおおおおおおおおお!」  がなるジョナサンの背中は、夕陽に長い影を落としていたという。 了
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