エピローグ

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甘い余韻が残る部屋。 服も碌に身に付けないまま、二人はベッドの上に寝転び、寄り添っていた。 自分を後ろから抱き締める、夏希の腕から温もりを感じる。 幸せな気だるさに身を委ねながら、春真は目の前に回された夏希の掌に自分の指を絡ませた。 ふ…とうなじの辺りに顔を寄せる夏希の気配に、首を少し捻って後ろを向く。 頬に夏希のさらさらと揺れる黒髪が触れるのを感じた。 「…悪ぃ、俺今日なんかラットが抑えきれなくて、」 「…っ」 ちゅ、とうなじに触れた唇の感触に春真の肩が小さく揺れた。 「身体、キツくないか?…加減があんま出来なかった。」 「いえ、そんな…、」 大丈夫だと答えようとする春真の声は少し掠れていて、それが甘く激しい時間の余波を物語っていた。 「…。」 少しだけ気まずそうに身体を起こした夏希がベッドサイドにある水が入ったペットボトルを手渡す。 小さく礼を言って受け取った春真の頬も心なしか赤く染まっていた。 そのまま身体を起こし、ベッドの柵を背もたれにして二人並んで腰掛ける。 冷たい水を口に含んだ春真のうなじに、そっと夏希の指が触れた。 赤く鬱血した跡がうなじのあちこちに散らされている。 「…最近、噛みたいのが抑えきれねーんだわ。」 小さく息を吐きながら夏希が優しく跡がついた辺りを撫でた。 温かい指先から与えられるくすぐったいようなその感覚に、春真は表情を緩めて夏希の方を見た。 「…もう…、夏希さんになら噛まれたって僕は…、」 言いながら春真の頬がさらに桃色に染まる。 むしろそうなりたい。 夏希が噛みたいと思う以上に、自分だって噛んで欲しいと思っている。 番になりたい。して欲しいと本気で思っている。 言ったものの恥ずかしくて視線を伏せてしまった春真の身体に、長い腕が回された。 そのまま自分の胸にもたれかけさせるように、夏希は春真を抱き寄せる。 「…次の休み、お前ん家に挨拶に行っていいか。」 「え…。」 「番になるって、一生のことだろ。お前の家族にもちゃんと話して、それからじゃねーとな。」 「…はい…。」 どこまでも真っ直ぐで誠実な夏希に、春真の心も熱くなる。 「…まぁ、お前の親父さんには恨まれるだろーけど。」 自分を抱き寄せたままで少し気まずげに言う夏希に春真も苦笑いを返して見せた。 「それは…、あの、本当に…いつもすみません…。」 「いや、お前のこと、本当に大切にしてるんだって分かる。」 返す夏希の表情も穏やかだった。 「だから、心配かけないように俺がちゃんとお前を大切にしていくって、伝えたいから。」 「…夏希さん…。」 不器用なくらいの夏希のこんな真っ直ぐさが、堪らなく好きなのだ。 同じ人に何度も何度も恋をしている、この気持ちは一体どこまで重なっていくのだろう。 そんな想いで、春真は自分を抱き締める力強い腕をきゅ、と強く握った。 見つめ合う互いの瞳に、互いの姿が写る。 引き寄せられるように唇を寄せれば、呼応し合うように溢れる二人の香りが、再び寝室に満ちていった。
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