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 真夜中に煙草を吸っていると、なぜかドクダミを思い出す。家の裏手に無造作に茂っていたドクダミ。それを夏の終わりに祖母が刈り取り、私に学校へと持たせていった。なぜこんな雑草を集める必要があるのか、ビニール袋に詰められた独特の臭いのするこの草を私は嫌っていた。  小学校の昇降口の前に用意してある大きな籠にドクダミを放り入れると、用務員のおじさんが「今年もよく集めてきてくれたね」と私を褒めた。それが嫌で仕方なかった。私は何もしていない。ただ、誰にも手をつけられることなく伸びた雑草を祖母が刈って集めただけなのに、私が褒められる。それが、どうしようもなく嫌だった。用務員のおじさんは笑顔を浮かべると古茶けた歯が見える。その歯は、私を蔑んでいるようにみえた。褒められているのは、私などではない。毎年変わらずに伸び盛る雑草と、それを刈った祖母の手柄を、お前が盗み取っているのだ。そんなことを言われている気がしてたまらなかったのだ。しかも、こんな臭い雑草のために。  煙草の香りはドクダミには似ていない。私は煙草の匂いを好んでいるわけではない。私が煙草を吸うのは、あらゆる匂いに対して鈍感になるためだ。真夜中に吸う煙草は、私という存在に対する嗅覚も鈍くさせる。この世界に私がいない、そんな錯覚を味あわせる。こうしないと私は眠ることができなくなっていた。
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