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 時刻は、七時半になるところ、そろそろ電車が来る。それに、きっとあの娘の姿も。  柔らかそうな麦色の髪を、駅のホームに吹く風に靡かせながら、あの娘がやってくる。いつもどおり、ブレザーのボタンを全て留めて、濃緑の蝶ネクタイをきちんと留めている。乗るべき電車がまだ駅に来ていないことを電光掲示板を見て確認してから、髪を手櫛で整えている。「清楚」という字も「可憐」という字も彼女の姿には当てはまる。両の手で鞄を体の前に持ち、天気の良い空を見上げている。その全てが煙草の匂いとは真逆の魅力を秘めている。  わざわざ早く家を出ている理由は、彼女に会うためである。会うといっても同じ駅のホームで電車を待つだけの関係である。声などかけたこともない。彼女に対して恋心を抱いているなどという考えは頭から振り払う。それは許されないことだから、キューピッドの矢などに私は貫かれていない。ただ、この変哲のない日常の中に、今年の四月から現れた彼女の姿が、ひとつの彩りを与えてくれた、それを甘受しているだけでよかった。  初めて目にしたのは、一週間前のことだった。いつもなら、珈琲を飲んだあとうだうだと朝の時間を潰していた私であるが、その日は期末の決算を終えたあとの処理がまだ残っていたために、早めに出社することにしていた。そして、まだ眠たい体を駅のホームまで連れてきた私は、彼女に会ったのだった。
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