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「それで、大切なお話ってなんでしょうか」
正座をして優衣さんが聞いてくる。彼女は、これから話す私の言葉をどう受け取るのだろうか。薄情な人間だと思ってくれた方がいい。嫌いになってくれた方がいい。その方がよっぽど楽だ。
マカロニグラタンを突いていたフォークを止めて、優衣さんの顔をじっと見る。初めて見たときよりも髪が少し短くなった。背も少し高くなった。顔つきもあどけなさが少し消えていた。それでも変わらず優衣さんのままだった。
「来年の三月から、私は愛知へ引っ越します。仕事の関係です。なので、私たちの共同生活もそれまでです」
よくもこんなに冷静に言えたな。私は心の中でせせら笑った。優衣さんは私の言ったことを信じていないようだった。「嘘ですよね」と力ない声で言った。
「嘘でも冗談でもありません。会社から命令が来たんです。それに、私たちのこの関係もいつまでも続けていていいものではありません。優衣さんはまだ高校一年生なんですから、私などに構ってないで友達と遊んだり、素敵な彼氏を作ったりして、幸せな学生生活を送ってください。私なんかの相手などしていないでいいんですよ」
「綾子さんは、綾子さんは、私がいやいや綾子さんと一緒に暮らしているとでも思っているんですか。違いますよ。私は綾子さんのことが」
「それ以上は言ってはいけません。それ以上は。私たちの関係は、事故の記憶に怯える少女とそれを慰めようとしたさびれた三十路女性。それだけです。それ以上はなにもありません」
私はわざと突き放すように言った。優衣さんの目には涙が溜まっているようだった。心が張り裂けそうなほどに締め付けられたが、顔色には出さなかった。それが私の役目なのだから。あの日、優衣さんを振り向かせてしまったことの償いの最後の役目。
「マカロニグラタン美味しかったです」
なにも言葉を出せないでいる優衣さんに、私は声をかけるとまだ残っているグラタンをキッチンまで持っていってラップをかけて冷蔵庫にしまった。冷蔵庫には、私では簡単に処理できないくらいの食材が詰められていた。それが私を苦しめた。
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