11/29
前へ
/132ページ
次へ
 優衣さんが突然振り向いた。そして手を伸ばして私の顔を掴むと、唇にキスをした。私ははじめ何が起きたのかわからなかった。だけど、自分の唇に優衣さんの唇が当たっていることに気づいた。引き剥がそうとしたが、優衣さんの顔は私から離れなかった。優衣さんの柔らかな唇は私の唇を捉えていた。しかし、それだけだった。彼女は唇を合わせたあとのことは知らないのだ。それでキスはおしまいだと思っている可憐な少女なのだった。  唇を重ねたまま、優衣さんはベッドから這い上がって、私の体の上にかぶさった。華奢な私の体は軽い優衣さんの体も動かすことができない。優衣さんは私に馬乗りになると、唇を離した。息が上がって、髪が乱れているのが、ずれたカーテンの向こうから差し込む街灯の光でわかった。  なんでこんなことしたんですかと言おうととした唇に優衣さんのキスがまた落とされる。優衣さんは私の手を取ると彼女の胸に触れさせた。柔らかな乳房の感触が冬用のパジャマの布越しでも伝わってきた。優衣さんは空いている右手で私の左手を掴んだ。そして、指を絡めて、ひとつひとつの指の感触を確かめるように指を動かした。動かないのは唇だけである。きつく結んだ唇と唇がじっと触れ合っている。もし、私が舌を差し出したら優衣さんは受け入れるだろうか。そう思ったがそれは決してしてはいけない行為だった。彼女の愛を受け入れるのに等しい行為。優衣さんの手は私の手を捉え、その豊かな乳房に触れさせている。しかし、私は指を動かすことはしない。  唇が離される。街灯の白い灯りに照らされた優衣さんの顔が見える。その目には涙が浮かんでいた。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加