54人が本棚に入れています
本棚に追加
職場に着いたとき、部署の人は誰もいなかった。電灯のスイッチを入れて、自分のデスクに鞄を置く。空調の電源は入っていないようで、分厚い窓ガラスで外気温を遮断した無機質な温度がオフィスに漂っている。椅子に座って、パソコンの電源ボタンを押してから、腕を上げて大きく伸びをした。肩甲骨が剥がれるような気持ち良さを覚えるとともに、ブラウスの裾がスカートから出そうになるのを感じる。椅子に座ったまま、ブラウスの裾をスカートの中に押し込んでから、ディスプレイの上でカーソルを動かして、メールボックスを開いた。昨夜仕事を終わらせて帰ってからいくつかメールが届いていた。多くはセミナーの案内やメールマガジンで、返信を要するものはふたつしかなかった。そのふたつとも、さほど手のかかるものではなかったので、必要な書類だけ添付して、定型の返事を返した。それが終わると、昨日作成していたプレゼン用の資料をざっと見直した。三月末の株主総会が終わってから、一年の仕事は一旦ひと段落した。今、私の手元にあるのは、部内予算の実績比較の報告と社内の従業員の時間外業務の部署ごとの総時間の報告書だけである。時間外業務を減らすための改善案は、部会で審議することになっているため、実績だけをまとめればよい。他のルーティンワークを行いながらでも簡単に終わらせることのできるものだった。昨日のうちに実績をグラフにまとめているので、あとは適宜コメントを付した資料をパワーポイントで作ればいいだけである。今すぐに手をつけてもよかったが、そうすると暇を持て余す可能性があった。おそらくスポットの仕事がいくつか回ってくるであろうが、それを考慮しても今日中には完成する。それでなくても部会は来週だ。今日はそこまで急ぐ必要はない。私はそう考えると、鞄の中からピースを取り出して、喫煙所へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!