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 今の私が眠れないのは、存在が消えることが怖いからではない。むしろ、痛みを伴わずに一瞬のうちにこの世界から私の存在を消し去ってくれるのであれば、私は喜んで闇の招待に与るだろう。私が眠れないのは、精神の病のせいだ。医者からは「不眠症」と学術的な診断を受けている。隔週ごと経過を診てもらうために、貴重な土曜日の時間を長く割いて病院へと向かう。そして、薬をもらって帰る。それだけで私の土曜日はほとんど終わってしまう。薬との付き合いは一年近くなるが、改善しているようには感じられない。最近では、医者に診てもらうことを止めようと考えている私がいる。布団に入る前に飲む三錠の薬よりも、眠れずにうだうだと過ごしたあとに吸う煙草の方が眠りに役立っているように思えるから。  「不眠症」になった原因は、はっきりしていない。ひとつ考えられるのは、私という存在がこの世界にいてもいなくてもなにも変わらないのではないかという疑問であった。
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