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この時間に家を出ると、始業時間よりもだいぶ先に会社に着くことになる。けれど、この時間であれば、電車の中は、シートに座ることはできなくとも、それほど混雑してはいない。それに始業時間前の業務も時間外業務として給与に反映されるから、早く家を出ることは苦ではない。ただ、この時間に出勤しはじめたのは今年の四月半ばからであり、それまでは始業時間ギリギリに会社に着いていた。
駅のホームからは、コンクリートで固められた斜面の上に金網のフェンスが見える。フェンスの向こうには、居酒屋の看板やいくつかのアパートの部屋が見える。いくら利便性があるとはいえ、東京の数多い電車の騒音を幾多も聞かなければならないあのような部屋にどのような人間が住んでいるのか気になっている。ホームからでは、アパートの横側しか見えない。そこには曇り硝子が見え、おそらくそこがトイレもしくは浴室として割り当てられているのだと思う。それぞれの部屋の小さなベランダもホームから見える。物干し竿をひとつしか掛けられないような小さなベランダだ。きっと陽はほとんど当たらない。それでもそこには洗濯物が干されているんだろう。クリーム色の壁を見ながら私はそう思った。
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