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何処に行く宛もない。
ただ、死に場所を探すだけ……
車のハンドルを握る真翔は、助手席で静かに座る高校生、凛をチラリと見た。
家に帰っていないのだろう。
小柄な彼は、大きめの夏用半袖スクールシャツに着られ、車を走らせてからずっと、車窓の外に広がる深い闇をぼんやりと見つめている。
「……」
「……」
二人の間に会話は無い。
今から一時間程前。
待ち合わせ場所で初対面し、そこで確認の為にお互い下の名前を言ったきりである。
『逝きたい』とネット上で呟いた真翔に反応した凛が『僕もです』とコメントし、繋がっただけの薄い仲だ。
何故死にたいのか、お互い理由は知らない。
聞くのは野暮、というものである。
車内の空調が嫌という程効き、夏にも関わらず肌寒い。湿度も落ちているせいか、先程からやたらと喉が渇いて張り付く。
少し咳払いをし、カップホルダーにある缶コーヒーを手に取ると、真翔はゴクゴクと喉を鳴らした。
その様子に気付いた凛が、つられて手にしていたペットボトルのお茶を口にする。
その同調に、少しだけ緊迫した空気が緩んだような気がした真翔は、オーディオに手を伸ばしラジオを繋ぐ。
「……」
スピーカーから流れたのは、テンポの良い邦楽。
少し首を傾け真翔へと瞳を向けた凛が、睨みつける様に冷たい視線を送る。
これから死ぬという人間が、何を悠長に音楽など聴こうとしているのか……
そう、訴えている様だった。
その視線に責め立てられた真翔は、直ぐに音を消す。
「……」
再び車内に静寂が戻ると、凛は先程と同様に車外を眺めた。
ただ一緒に死ぬだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
二人を乗せた車は、この二人の終末へと向かい──深い闇の中を、ただひたすら走り続ける。
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