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「……」
何処か、似ている。
もっと表情豊かに笑い、温かく柔らかい雰囲気ではあったけれど……
凛を目の前にし、真翔の心臓が早鐘を打つ。
震える指先。
親指を退け、柔く瞼を閉じ、ゆっくりと唇を寄せる。
……冷たい。
僅かに触れた瞬間、ビクンッと小さく震え唇を退かれる。と同時に、凛の目が見開かれた。
まるで、火傷でもしたかのように。
しかし、直ぐに冷めた表情に切り替わった凛は、長い睫毛を静かに下ろし、魅惑的な唇を少しだけ割り開いて、再びキスを待ち構える。
それに引き寄せられた真翔は、今度は少しだけ強く唇を押し当てた。
柔らかい……想像以上に、気持ちいい。
その感触に溺れ、真翔は更に奥深い所へと探求する。
唇の隙間から舌先を忍ばせれば、凛はそれをすんなりと受け入れた。
ねっとりと絡む、粘膜と粘膜……
くちゅ、……と淫らな水音が、夜空に響かせる花火の音を遠ざける。
……はぁ、…はぁ、
少し離れてはまた絡め、お互いの熱を交ぜ合う。
凛の後頭部に手を掛け強く引き寄せれば……より深い部分へと入り込み、次第に心が満たされて、愛おしさが強くなっていくのを感じた。
まるで……あの日をやり直すかの如く激しく求め、咥内を貪り尽くす。
後悔なんて、しないよう……
もっと、もっと──
「……だめ」
か細い凛の声に抵抗され、真翔はハッと我に返る。
「……綺麗な体のまま、逝きたいから……」
気付けば、スクールシャツの裾をスラックスから引き抜き、そこから手を差し込んで柔肌に触れていた。
完全に飲み込まれていた真翔は、慌てて手を退ける。
「この体は、大人の欲に塗れてしまって……もう、綺麗なんかじゃないけど……」
淡々と、しかし少しだけ芯の残る声に、真翔は直ぐに言葉が出てこない。
大人の欲──思春期特有の、性に対する欲望の芽生えの事、か……?
「………ごめん。似ていたんだ」
「……」
「君が、その……恋人に……」
そう答える真翔に、凛の瞳が反応する。
相変わらず無表情ながら、その瞳の奥に微かながら感情が宿り、息づいたのを感じた。
それを隠すかのように、凛は視線を逸らし、花火を見上げる。
「……死ぬ時、苦しいかな」
凛の吐いた台詞に、急に子供らしさを感じた真翔は、口角を少しだけ持ち上げ緩く息を吐く。
「どんな方法でも、……きっと苦しいよ」
その言葉に引っ張られ、凛が真翔に真っ直ぐ視線を合わせる。
「……少しでもいいから……苦しまずに死にたい」
ガラス玉の瞳が揺れる。
死を直前にして見せた、凛の感情──
……怖い。
当たり前だ。
誰だって死ぬのは怖い。
怖いのは、何もその直前だけではない。
苦痛の先にもしも……
もしも、その未来が存在してしまったとしたら……
その絶望に苦しむ光景を、想像せずにはいられないから。
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