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真翔は既に、かつての恋人の面影を凛に求めてはいない。
鋭い目つきで冷たく拒絶する凛を。
しかし、本当は寂しがりで怖がりな凛を。
たった数時間。たった数回言葉を交わしただけなのに。
死という運命を共有しているせいか──とても愛おしく感じる。
もしこの状態で発見されたとしたら、悲恋が生んだ心中だと報道されるのだろうか。
恋人でも何でもない。
素性も何も知らない。
ただ、一緒に死ぬだけの相手……
「……ぁ、…あぁ…ん、…」
甘く漏れる、か細い嬌声。
真翔の全てを飲み込み、離したくないと縋りつく。
それは本能からか。それとも──
焦点の合わなくなった凛の瞳光が、静かに揺れ……重たそうにゆっくりと、瞼が閉じる。
「……もぅ、…限界……」
荒い息を漏らしながら、気怠そうに凛の唇が微かに動く。
そんな凛の濡れた前髪を、痺れる指でそっと剥がす。
「……俺も、だ……」
「まさ、と…」
凛の瞼が、ゆっくり半分程持ち上がる。
胸と胸を合わせ、凛の綺麗な瞳を間近に捕らえる。
苦しいのだろう……
僅かに開かれたその柔らかい唇を、愛おしむように優しく塞ぐ。
恋人と別れてから……ずっと暗闇の中を彷徨っていた。
たまに差し込まれる小さな喜びの光は、真翔の足元を微かに照らすだけで……すぐに儚く消えていく。
もし、未来を明るく照らす眩い光があるとしたら……
それは……今、なのだろうか……?
……はぁ、はぁ、はぁ
真翔の身体から、心地よく力が抜けていく。
頭が痺れ。手足も痺れ。
ただ、繋がった所だけが……熱く漲る。
真翔の背中から、力無く凛の手が滑り落ちる。
その手のひらを握り、指を絡める。
腰を打ち付ける度、上下に揺れる凛が……掠れた声を僅かに漏らす。
「………逝、く…」
「……逝こう、一緒に……」
ドォーン!
闇夜を切り裂き、音を鳴らして上がる眩い光が、瞬きする速さで開花し……闇夜に美しい火花を散らす。
凛の指に絡む、真翔の指先。
それが僅かにぴくり、と痙攣する。
……解っていた。
死が齎したこの閃光もまた、夢幻……
一緒に生きよう、というのは
野暮、というものである。
激しい音と燃えさかる炎を放った美しい花火は、ちりちりと儚く消え──
闇夜にまた、静寂が戻る。
そして、終わりを告げる音のない閃光が数回──
闇を眩しく照らし
静かに
消えた
† end †
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