目撃者

殺人事件

とあるマンションの一室で、殺人事件が起きた。殺されたのは50代の女、カヨコ。
容疑者はその夫、タダノブ。

警察は痴情のもつれによるものとみている。
刑事をおよそ30年やっているベテラン刑事は、配属されて30日の新米刑事に手解きをしながら取り調べに臨んでいた。

「まぁ、奥さんの不倫でカッとなったんだろう？」

ベテラン刑事の問いかけにタダノブは首をふる。

「違います！刺したのは事実ですが、殺そうと思ったんじゃないんです、妻から妻から……」

タダノブの言い分はこうだ。

帰宅すると包丁を持って妻が立っており、別れ話をし始めた。
だが、結婚してもうすぐ30年。子供は出来なかったが今まで仲良くやってきた。懸命に仕事もこなし、高層マンションの30階に住めるまでに出世した。
妻がホストに通い、男に貢いでいることもカラダの関係があることにも、気がついていたが、見て見ぬふりをしてきた。仕事で妻に構ってやれなかったし、それくらい仕方ないと諦めていた、と。

「でもねぇ……そうはいっても状況がそういってるんだよねぇ、認めた方が楽だよ？」

ベテラン刑事に促されても、タダノブは消して認めなかった。