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真相は……
テラシマは、善意をもって刑事たちの呼び出しに応じた。
そして、誠意をもって対応したつもりだった。
帰宅するや、テラシマ青年はノートを取り出した。そして、ニヤニヤと笑みを浮かべながら今日の出来事を書いていく。
「事件は初めてだったから、ドキドキしたなぁ……」
目を閉じ、あの事件の日を思い出す。
いつも通り、窓を拭いていた。
部屋の中を チラリと覗く。見てはいけない。でも、やはり気になる。
すごい剣幕で男が部屋に入ってきた。
男は女に何か怒鳴っているようだった。
男が女に詰めよっていき、女は逃げた。
そのとき、男が ギロリ とこちらを見た。
僕は慌てて隠れた。バレてない?バレた?
ドキドキしながらもう一度覗く……
男が女に包丁を向けていた。そして……!!
ドキドキしたなぁ。犯人は捕まったし、いつも通りまた明日から窓拭きかぁ……
テラシマ青年は、仕事上 他言無用なことが多い。日々言えない事を、ノートに認めてから寝る。これが彼のルーティーン。
「警察にも話さないなんて、プロだよなぁ僕……」
テラシマ青年は、自分のところに来たのは裏付け捜査の一環だと思っていた。
話さないことで捜査を混乱させているつもりもなく、自分に酔いながら今日も眠る。
一方、タダノブは 無駄な足掻きだったか……と 諦めて、心のなかで罪を認めていた。
妻を許してきた。
子供が出来ないのは仕方ないと思っていた。
なのに、妻が自分の事を 始めから金蔓としか思っておらず 愛してもいないと知った時の虚無感を、子供は妻が作る気もなかっただけだと知った時の絶望を、うまく言いくるめられてきたこの屈辱を……警察なんかに理解できるハズがない。
タダノブは黙秘し続けたまま、起訴され、懲役刑が下った。
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