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合格発表
この日ほど、人生を大きく左右する日はないだろう。
那古野市立菊陽高校3年の桜町礼二は、国立那古野大学のキャンパスにいた。
「な、ない。オレの名前、ないっ! 全滅、ついに全滅だ」
パソコンで確認できるが、礼二は同級生の女子高生と二人で合格発表を見に来たのだ。
最後の望みをかけた大学の結果発表を見て、礼二は足を震わせていた。
「礼二! 大丈夫だって、来年があるっ! 来年がダメでも、再来年があるよ! 元気出しな! あはははは」
バン、バンバン
礼二の背中を、菊陽の同級生・旭川シュリが何度も叩いて励ました。が、礼二は目を吊り上げてシュリを威嚇した。
シュリはショートカットにカチューシャをしている。少し色が黒くて目がクリっとしていて、八重歯が子供っぽさを演出していた。
「お前なぁ、他人事だと思って、簡単に言いやがって! いいよな、お前は。国立の那古野大学に現役合格だもんな! あーあ、賢いヤツは、羨ましいぜ!」
礼二は、精いっぱいの嫌味を言った。
だが、天然と言うか天真爛漫なシュリはウンウンとうなずいた。
「でしょでしょ、羨ましいでしょ、天は二物も三物も与えちゃってるのよねっ! ごめんね、天才で!」
礼二は顔を引きつらせていた。
「自分で言うかよ……。じゃあな、達者で暮らせ。今日からオレたちは別々の人生だ。あばよ!」
この新しく誕生した浪人生・礼二は、地頭こそ悪くはない。
ただ、それがために「努力」と言うものに労力を使うことを惜しみ、何とはなしに乗り切ってることができた。
ところが、「難関大学受験」という「強敵」の前にそれは通じなかった。
ただ、本人はその自覚がなかった。
「……まあ、受験勉強始めたの遅かったしな。風邪気味で体調悪かったし、運が悪かっただけだ」
と言うように、常に自分の失敗を他者や他の物のせいにする「悪い癖」があった。
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