合格発表

1/1
前へ
/267ページ
次へ

合格発表

 この日ほど、人生を大きく左右する日はないだろう。  那古野市立菊陽高校3年の桜町礼二(さくらまちれいじ)は、国立那古野大学のキャンパスにいた。 「な、ない。オレの名前、ないっ! 全滅、ついに全滅だ」  パソコンで確認できるが、礼二は同級生の女子高生と二人で合格発表を見に来たのだ。  最後の望みをかけた大学の結果発表を見て、礼二は足を震わせていた。 「礼二! 大丈夫だって、来年があるっ! 来年がダメでも、再来年があるよ! 元気出しな! あはははは」  バン、バンバン  礼二の背中を、菊陽の同級生・旭川シュリが何度も叩いて励ました。が、礼二は目を吊り上げてシュリを威嚇した。  シュリはショートカットにカチューシャをしている。少し色が黒くて目がクリっとしていて、八重歯が子供っぽさを演出していた。 「お前なぁ、他人事だと思って、簡単に言いやがって! いいよな、お前は。国立の那古野大学に現役合格だもんな! あーあ、賢いヤツは、羨ましいぜ!」  礼二は、精いっぱいの嫌味を言った。  だが、天然と言うか天真爛漫なシュリはウンウンとうなずいた。 「でしょでしょ、羨ましいでしょ、天は二物も三物も与えちゃってるのよねっ! ごめんね、天才で!」  礼二は顔を引きつらせていた。 「自分で言うかよ……。じゃあな、達者で暮らせ。今日からオレたちは別々の人生だ。あばよ!」    この新しく誕生した浪人生・礼二は、地頭こそ悪くはない。  ただ、それがために「努力」と言うものに労力を使うことを惜しみ、何とはなしに乗り切ってることができた。  ところが、「難関大学受験」という「強敵」の前にそれは通じなかった。  ただ、本人はその自覚がなかった。 「……まあ、受験勉強始めたの遅かったしな。風邪気味で体調悪かったし、運が悪かっただけだ」  と言うように、常に自分の失敗を他者や他の物のせいにする「悪い癖」があった。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加