朱殷《しゅあん》

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朱殷《しゅあん》

胸に咲く薔薇色のあざは、あのひとの唇が触れたあとだ。 このつぎ会うまでの約束のかわりに、別れ際に私がそれをねだる。 このしるしが消えるまでにまた、私たちが会えますように。会えますように。会えますように。 それは一連の儀式のように、いつしかふたりの間に定着しつつあった。 何か嫌なことがあったとき。それはお客さまのクレームであったり、上司のお小言であったり、先輩のいやみだったりする。 そんな時は会社の洗面所でひとり、制服のブラウスのボタンをひとつだけ外す。
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