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七月の昼中、君を刻む
終業式の日はとにかく暑かった。
雲に遮られることなく降り注ぐ陽光から逃げるように俯くと、首筋がじりじりと焦がされる。
「暑いな」
「うん、暑い」
廉士が前髪をかきあげる。
うんざりだという風に顰められた眉が、私と目が合うと屈託のない笑みに変わる。その輝きを視界から逃がすように顎を引く。
太陽も、廉士も。眩しいものは苦手だ。
嫌いなわけじゃない、むしろ本当は手を伸ばしたい。だけど目の前にするとどうしたら良いかわからなくなる。
その高校に2学期から通わなくなると知ったのは今朝のことだった。
いつもより早く起こされたと思ったら、母が囁くように告げた。一緒に逃げるよ、と。
父は仕事をクビになってからパチンコと酒に溺れて暴力を振るい、母は生活のために昼も夜も働き通した。
いつかこの生活に終わりがくるとは思っていたけれど、このタイミングだったのは母の心身に限界が来たのか、母を助けてくれる男性が現れたのか、理由は知らない。
ただの高校生でしかない私には母の提案を拒否する選択肢などなく、素直に頷くしかなかった。
母はごめんねと言った。どうして? と聞くと、友達と離れてしまうからと言う。
母は馬鹿だ、何もわかっていない。こんな家庭で育ち、根も葉もない噂が絶えない私に、友達なんてできるもんか。
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