七月の昼中、君を刻む

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「何のつもりか知らないけど、俺の気持ちも考えろよ」  怒った口調にそぐわない悲しげな顔で廉士が言う。  廉士の気持ちって何。恋人の存在とか今の気分とか? わからないよ。私には人気者の廉士の気持ちなんてちっともわからない。 「好きなんだよ! お前が!」  私の察しの悪さに焦れた様に、廉士が声を荒げた。待って、今、何て――? 「分かれよ……」  掠れた声が絞り出されて、整った顔が苦しそうに歪む。見たことのない剝き出しの廉士が、そこにいる。  そんな目で見つめられたら私まで剥がされてしまう。  やめて。私は今日、取るに足らない女を演じなければならないんだから。 「やめてよ」  上手く取り繕えない。廉士があまりにも真っ直ぐにぶつかってくるから、言わないと決めていた言葉まで勝手に漏れだしてしまう。 「私もういなくなるんだから」 「え、引っ越し?」 「違う、逃げるの」 「逃げ……?」 「会うのはこれが最後」  「何だよそれ」  上半身が持ち上げられてまた視界が変わる。突然のことに声が漏れる。  廉士の腕が私の背中に回され、廉士の顔は私の首元に埋められている。  現実に追いつけない中で、鼻から入る汗と体臭の混じった廉士のにおいが脳を痺れさす。麻薬みたいにくらくらする。  夢と現の境界線がよくわからない。もういっそ、全部夢ならいい。
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